丸ごとそのままの姿で保存 琥珀に閉じ込められた恐竜時代のヒナ鳥発見
CTスキャンのイメージによると、この琥珀のかたまりの中には、このヒナのほぼ上半身が丸ごと含まれていることが分かる。完全な頭骨、首から胴体の一部、羽にあたる前脚の骨は関節が繋がっているようだ。胴体の一部から尻にかけて少し見当たらないが、後脚の部位もかなり残っているようだ。 こうしたデータをもとに復元された全身図が下のイメージだ(イメージ10)。研究チームはこのヒナを、現在生息する現地の雲雀(ヒバリ)の名になじって(愛称の意を込めて)「BELONE」(ベローン)」と名付けた。
このヒナ鳥「べローン」は前脚に爪を備え、歯には細かな歯がたくさん生えている(イメージ11)。こうした特徴は現生の鳥には見られない。今度チキンなどを食べる機会があれば、こうした解剖学的特徴を確認するのも一興かもしれない。口ばしに歯はなく手羽先に爪は生えていないはずだ。こうした特徴をもとに、研究チームはこのヒナが「エナンティオルニス類(Enantiornithes)」(注:白亜紀に繁栄した非常に原始的な鳥類の一グループ。50種近く知られているが、新生代に入る前に全て絶滅した)に属するという判定を下した。
しかし具体的な属や種までははっきり特定されていない。白亜紀の化石記録においてヒナの標本は他にほとんど知られていない。そのため他の多数ある成鳥の化石標本のものと、直接比較することは非常に難しい。鶏とヒヨコの姿がまるで異なっている事実を思い出していただきたい。化石記録において、赤ん坊と成体の個体を「同一種と判定すること」は、古生物学者にとって時に至難の技なのだ。
鮮明な軟組織のイメージ
今回の研究論文で私が一番感銘を受けたのは、皮膚や羽の保存状態だ。以前にも「ミイラ化した恐竜骨格 」や皮膚化石による「体の色の復元」を記事として取り上げた。しかしこのベローンという標本は、およそ中生代の化石標本には見えない。否、まるでありえないイメージを持っている。 (注:以下の記事参照; ) 足の指先のイメージをまずご覧になっていただきたい(写真12-15)。細かな鱗が一つ一つ綺麗に並んでいるのが分かる。爪の表面にはまだケラチン質が残っているのではないだろうか。繰り返していうが、これは約1億年前の小さなヒナの死体だ。私は初めてこの写真を目にした時、文字通り言葉を失ってしまった。「現実離れした」「こんなものありえない」「作り物ではないのか」こうした表現も実に陳腐に響くのは、自然のいたずらとしか言いようがない。