丸ごとそのままの姿で保存 琥珀に閉じ込められた恐竜時代のヒナ鳥発見
井戸のようなものは地下で掘り崩した岩石や見つけた化石などを地表に運び出すために用いられているようだ(写真4―6 )。おそらく電力ではなく、手作業で行われているようだ。炭鉱など鉱物を目的にした採掘と比べれば、それほど大掛かりな設備ではないかもしれない。しかし、琥珀だけのためにセットされているとするとなかなかのものだ。おそらくかなりの量の琥珀が埋蔵されていると推測されているのではないか。
井戸のような入り口から覗き込んだイメージから見ると、琥珀がある特定の地層から見つかるのかもしれない(写真 7)。よくみると地表からそれほど深くないようだ。特定の地層に沿って水平状に掘り進んでいるようだ。 一連の発掘現場や風景の写真を見て私が感じる印象は、かなりたくさんの琥珀が、ここの地層には含まれているようだ。特に小動物を含んでいる琥珀は、商業的にも価値があるため、発掘は今後も継続して行われることが予想される。たくさんの貴重な化石が発見され続けることは、研究者としては望ましい限りだ。しかし一方、個人の収集家などに売り渡されて、大邸宅のリビングルームやビジネスオフィスなどに飾られている、貴重な化石標本も多々あるのかもしれない。(こうして売買されたものは、残念ながらサイエンス上、しっかり研究される機会を失うことになる。)
琥珀に閉じ込められたヒナ化石
ヒナ鳥が含まれた琥珀をまず見てみよう(写真8)。全長は9cmほどなので、ちょうど成人の手のひらに収まるほどのサイズだ(おにぎりよりは少し大きい)。全体に黄色がかった透明色な琥珀の中には、黒味みを帯びたものや茶色がかったものがたくさんある。多くは木の葉や細かい枝、小さな虫などと思われる。
この琥珀標本は(私の知る限り)かなり大きいもののようだ。ほとんどの琥珀はぶどう粒から砂粒くらいの大きさだ。こうした小さなものになると、大き目の動物を丸ごと含むことは期待できない。「鳥サイズの個体をもつ大きな琥珀」だけでも希少価値がある。実際に鳥を含んでいる中生代の琥珀など、私はこの標本を目にするまで、夢にも思わなかった。 薄透明な琥珀を通してヒナ鳥の輪郭が、おぼろげながら分かるかもしれない。光を透かしてみたり虫眼鏡や顕微鏡を用いれば、その存在はよりはっきり確認できる。しかし詳細な体の構造や特徴は、濁って不純物を含んでいる琥珀を通して観察することは難しい。今回の研究チームはCTスキャンを用いて、鳥の骨格イメージをより鮮明に3次元的に復元している(写真9)。こうすれば貴重な琥珀化石標本を切り刻む必要もないので、一石二鳥だ。(もちろん鳥は一匹しか含まれていないが。)