熱中症「梅雨明け前のこの時期がいちばん危険です」死なないためにできることは【医師に聞く】
「水を飲まないとならないのはわかるけれど、タプタプしてしまって飲めない」の対策は
さて、熱中症を防ぐために最重要なのは水分摂取ですが、たとえば真夏の炎天下にどうしても畑仕事をしないとならない場合、2リットルのペットボトルをさすがに2本は飲み干しきれなくて、結局は熱中症というようなことも経験しました。 「汗が出たらその分は摂取しないとなりません。ブドウ糖とナトリウムが腸管での吸収を高めますが、比率の影響を受けます。また、飲んだらすぐ吸収されるのではなく、小腸から吸収されるのに時間がかかります」 つまり、飲み干しきれないのも当然で、いちどに飲んでも吸収できる量には限りがあるというわけです。 「糖質量が多い飲料ほど血漿量回復効果が高く、持続もすると考えられます。糖と電解質が入っているイオン飲料は水に比べて血漿量が低下した状態からの回復が速やか。普段の食事で食べている糖、水分でもじゅうぶんですが、急に汗をかくときはこうしたナトリウムを入れることが重要です」 「比率の影響を受ける」とはどういう意味なのでしょうか? たとえば、よく知られる経口補水液 「OS-1」はナトリウム濃度がイオン飲料より高いため、熱中症というよりは嘔吐下痢でのナトリウム喪失に使うのが最適なのだそう。 「下痢で失われるのは小腸大腸の液体ですが、これらのナトリウム濃度は汗よりかなり高く、血漿の濃度に近い。嘔吐の場合なら胃液がなくなります。同じ脱水でもナトリウムの損失はかなり違うため、その都度補給する飲料を選択していくのも大事なのです」 腸管での吸収スピードと水分再充填の効果を考えると、やはり糖質も含まれたイオン飲料が最適となるそうです。
この夏は「必ず覚えておいてほしい」内部冷却の方法とは
「もうひとつ、身体の内部から冷やす内部冷却は、使わないとならない場面が出てくるかもしれません。熱中症の最終段階は体温が上がってたんぱく質が変性を起こし、不可逆な脳障害が起きることです。この予防が必須です」 アスリートの場合、明らかに体温が上がるとわかっていたら氷を浮かべたお風呂「アイスバス」に身体ごと漬けるそうです。 「これは乱暴なようでとても有効。人間は2500kcalの半分以上が基礎代謝で、とても多量の熱を作ります。それが調節できないときは氷に漬けて冷やすしかないんです。よりマイルドな方法は、氷で冷やしたアイスタオルをからだじゅうに巻き付けて扇風機をあてる、水をかける、アイスベストなど。熱中症の症状を出している人に対して何もしないのは絶対にだめ、最低でもクーラーの効いた安全なところへ連れていき、異変を感じたら、アイスタオルくらいはできると思うから迷わずやる。AEDと同じです」 もうひとつ、最近知られつつあるのが内部冷却です。 「消防士など、汗をかいてもまったく蒸発のない防護服の現場では、凍った飲み物を体内に入れるアイススラリーを取り入れています。冷たい氷を飲ませ、食べさせて、休んでいる間にちょっと早めに体内から冷やすのです」 ここまでの前編記事では熱中症が起きる機序を伺いました。後編では個別の疑問に対して「どうすればいいのか」ケーススタディのQ&Aにお答えいただきます。たとえば、減塩中の人は塩分摂取をどうすればいいの?
お話/早稲田大学人間科学学術院 体温・体液研究室教授 医師・博士(医学)永島計先生 ながしま・けい 1960年生まれ。85年京都府立医科大学医学部医学科卒業、95年同大学大学院医学研究科(生理系)修了。同大学附属病院研修医、米イェール大学医学部ピアス研究所ポスドク研究員などを経て現職。専門は生理学、とくに体温・体液の調節機構の解明。
オトナサローネ編集部 井一美穂