インターネットの誤情報に惑わされない「デジタル・ヘルスリテラシー」とは
宮脇 梨奈(明治大学 文学部 専任講師) コロナ禍では正しい情報だけでなく誤情報や偽情報が氾濫し、その状況は情報(information)と感染流行を意味するエピデミック(epidemic)を掛け合わせて「インフォデミック(infodemic)」と呼ばれました。情報過多のインターネットで適切な健康情報を見極めるために、私たちは何を気をつければよいのでしょうか。
◇深刻な健康被害を出した“インフォデミック” COVID-19パンデミック下での情報伝達力は、スペイン風邪流行時(1918~1920年)の約150万倍、SARS(2003年)の68倍とも試算されています。その主な媒体となったのは、やはりWeb 2.0で双方向性を持ったインターネットと、容易に情報を共有できるソーシャルメディアでした。 テレビなどのマスメディアが人々の健康に関する主要な情報源のひとつであることに変わりはありませんが、現在では世界中で36億人以上がソーシャルメディアを使用しており、ソーシャルメディアとメッセージングアプリに1日当たり平均144分費やしていると報告されるなど、情報源としてのインターネットの比重は非常に大きくなっています。 ソーシャルメディアの即時性は、専門家と一般市民の両方に多くの情報を迅速に広める機会を提供し、効果的なリスクコミュニケーション戦略を構築し対応していく上でも重要な役割を果たします。一方で、情報が過多になることで人々が触れるべき正しい情報が埋もれてしまう可能性があります。 とくに、善意の人々によっても共有される間違った情報である誤情報(misinformation)や、攻撃や損害等を意図してつくられた偽情報(disinformation)は、政府・行政機関や保健機関の健康関連通信をはじめ、各国の公衆衛生対策やワクチン接種を妨害するなどパンデミックへの対応を複雑にし、深刻な健康被害と社会的健康への悪影響をもたらしました。 たとえば「高濃度のアルコール摂取が体内を消毒しウイルスを殺す」という誤情報からメタノールを飲んだことによって、世界各地で約800人が死亡、5876人が入院、60人が失明するという事態が引き起こされたと報告されています。また、SNSでは医療従事者やアジア出身者らに対する偏見が増幅され、インターネット内外での暴力的な攻撃につながってしまいました。 現代のインターネットでは、誰もが情報の受け手であると同時に、情報の送り手になりえます。また、医療や公衆衛生などの健康情報は、人々の生命やQOLに加え社会的健康に直結します。 したがって、人々が健康情報を適切に活用し、社会的健康を維持するためには、オンライン上の情報の検索・取得はもちろん、内容を評価して活用する能力に加え、情報を共有・発信してよいかどうかを判断する能力が必要になります。 この「デジタル・ヘルスリテラシー」(Digital Health Literacy、以下DHL)と呼ばれる力を向上させることがインフォデミックの対策にもなり、人々の適切な予防行動や偽・誤情報の拡散抑止につながると私は考えています。