登場するなり「終わらせよう!」と勝利宣言…M-1連覇達成「令和ロマン」の1年がかりの緻密で壮大なプラン
■「M-1 2024」の令和ロマンは憎たらしいほど完璧だった そこからの行動も憎たらしいほど完璧だった。「M-1」で優勝した芸人には、多くのテレビ番組から出演オファーがかかる。しかし、くるまはテレビには出ないことを高らかに宣言して、徹底的に仕事を選んだ。 何でもかんでも出るという姿勢でいると、自分たちが出る必然性のない番組にも出ることになり、そこで活躍できずに悪い印象を残すことになってしまう。また、テレビに出まくることで顔を売ることができる一方、消費されて飽きられるのが早くなるというリスクもある。 また、テレビよりもライブや営業の仕事を重視することで、漫才師としての腕を磨きつつ、収入も確保するという意味もあった。連覇という目標達成のために、過度にテレビに出ないようにした。 ■ボケのくるまは漫才の本を書き上げ、M-1用のネタを作った 実際には、令和ロマンが全くテレビに出ていなかったわけではない。ニホンモニターが発表した「2024ブレイクタレント一覧」によると、令和ロマンはこの1年で169本もの番組に出ている。レギュラー番組もあったし、お笑い色の強い番組には、むしろ積極的に顔を出していたように見える。テレビの仕事量も自分たちでコントロールしながら、連覇への歩みを着実に進めていた。 11月にはくるまの著書『漫才過剰考察』が出版された。漫才や「M-1」について、現時点での彼の考察をまとめた力作である。くるまはこの本を書き上げるまでに約9カ月を要したという。もとになる連載コラムの原稿に大幅に加筆する形でまとめられた本書は、これまでの芸人人生の総決算のような内容だった。 書籍の執筆を通して漫才について誰よりも考え抜いた彼は、それを書き上げた後の10月末に新しい漫才ネタを2本生み出した。それが決勝の舞台で披露する勝負ネタになった。
■予選が始まると、自分たちを「害悪」と言いヒール役に 「M-1」の予選が始まると、くるまは自分たちを「害悪」と位置づけて、ヒールキャラに転身した。すでに優勝しているのに再び出場することで、普通ならほかの芸人やそのファンから敵視されてもおかしくはない。だが、そこでくるまはあえて悪者になりきって、そのキャラを演じることで、対立の構図そのものを鮮やかに笑い飛ばし、お笑いファンからも好意的に見られるようになった。 「テレビで売れるために『M-1』に出ている人」であれば、優勝してテレビに出まくっていると、「もう『M-1』には出なくていいでしょう」と思われてしまうかもしれない。だが、テレビに出ないと宣言していて、地道に漫才を続けてきた令和ロマンは、そのように反感を抱かれることもなかった。 令和ロマンは今年も厳しい予選を勝ち抜き、決勝に駒を進めた。ファイナリスト発表会見の席でも、コメントを求められたくるまは「すべての子羊漫才師を檻に帰す。ただそれだけですね」と語った。 ■決勝では、100分の1の確率で2年連続トップバッターに そして決勝当日。20回目の記念すべき大会を祝福するかのように、気まぐれな笑いの神はとんでもないイタズラを仕掛けた。柔道の阿部一二三選手がくじを引き、選ばれた一番手は、なんと令和ロマン。昨年の大会に引き続き、最初に舞台に上がるというスーパーサプライズ。100分の1の確率で2年連続トップバッターとなった令和ロマンは、奇跡に沸き返る観客の前に降臨した。漫才の冒頭でくるまは「終わらせよう」(終わらせましょうという意味)と挑発的な言葉を放った。 漫才のテーマは「名前」。くるまが、自分の子どもには学校の教室で有利な席に座らせたいので、名簿順で最後の方になる「渡辺」という名前を付けたいという一風変わった主張を展開していく。誰もが共感できる身近なテーマを扱いながら、話題を深く掘り下げていくことで笑いを生み出していった。観客のボルテージが最高潮に達している中で、令和ロマンも最高のパフォーマンスを見せた。 審査員の評価も軒並み高かった。通常、1組目の芸人には様子見でやや低めに点数をつける傾向があるのだが、審査員がそのような配慮をしているとは思えないほど点数は高かった(合計850点)。トップバッターという不利な順番で見事な漫才を披露したことに対して、審査員が高い評価を与えていたように見えた。