ポルシェ911初のハイブリッドモデルに試乗!「ポルシェらしさ」は健在か?
スペイン・マラガで911初のハイブリッドモデルに試乗
試乗のスタート地点であるホテルに用意されたGTSのエクステリアをじっくりと眺めてみる。牙のようにも見えるフロントバンパーの左右に5本ずつ配された縦長のフラップが目をひく。これは内側にも横向きのフラップが備わっており、ブレーキまわりやアンダーフロアへの整流、またウェットモード時の雨水の流れなどを統合制御するという。高速巡航時など必要なパワーが最小限の場合は、フラップを閉めてエアロダイナミクスを最適化。サーキット走行など冷却効果を高める必要があるシーンではフラップを開きラジエーターに空気を送り込む。ドライバーが任意で操作するものでなく、あくまで自動で作動する。 また新しくなったマトリクスLED ヘッドライトが、LEDのドライビングライトなどすべてをビルトインするタイプとなったため顔つきがすっきりとした。リアまわりでは、リアグリルにあるフィンの数を左右に5枚、計10枚と従来モデルよりも大幅に減らし、よりリアウインドウと一連のものに見えるように、テールランプはポルシェのロゴを囲い込むようなデザインになった。これ以外にもエグゾーストパイプやナンバープレートの位置が変更されている。 インテリアは基本的には従来モデルを踏襲する。大きく変わったのは、ドライバーの眼前に最後まで残されていた中央のアナログメーターがなくなり、12.6インチの曲面ディスプレイになったこと。アナログ派には寂しいところだが、視認性は明らかに高まった。レブカウンターを中央に配した伝統的なポルシェの5連メーターにインスパイアされたディスプレイなど、最大7種類の表示が可能となっている。もう1つは、エンジンスタート/ストップボタンが備わったこと。先代では始動時には、キーのかわりにノブをひねる所作が受け継がれていたが、それがなくなった。時代である。 まずは公道で「タルガ4GTS」に試乗した。GTSだからと身構えていたが、意外と常識的なボリュームの排気音とともにエンジンが始動する。アクセルペダルをゆっくりと踏みこむと低速域から瞬時に加速する。中央のメーターをよくみると回生時にはグリーンの、アシスト時にはブルーのバーの表示が伸びる仕組みになっている。タービン内の電気モーターも使って回生しているようで、アクセルを踏んでいても回生するシーンがある。また日常走行では2000~3000回転まではアシストするも、それ以上は内燃エンジンにまかせてアシストをやめるのでメーター表示が頻繁に動く。スポーツプラスモードで全開走行を続けるようなシーンでは可能な限り最大のアシストをするようだ。 新開発の3.6リッターエンジンは、4000回転を超えたあたりから力強い、いかにもポルシェの水平対向6気筒らしい音がする。右足に力を込めると7000回転あたりまで淀みなく吹け上がる。ハイブリッドとも、ターボとも言われなければわからないかもしれない。それくらいシームレスでスムーズだ。PDKも変速ショックを感じさせず、あっという間に速度が高まる。サスペンションも新しいタイヤ(銘柄はグッドイヤーイーグルF1スーパースポーツR)に合わせて最適化されており乗り心地もいい。公道を走っているぶんには、より快適なGTカーのようだと感じていた。 しかし、GTSの本領はサーキットでこそ発揮される。舞台は会員制サーキットとして名高いアスカリレースリゾート。全長約5.5kmの本格コースだ。サーキットでは、クーペボディの「カレラGTS」、「カレラ4GTS」、を比較する。GTSには、車高を10mm下げたスポーツサスペンションと可変ダンパーシステム(PASM)、そしてこの新型からリアアクスルステアが標準装備になっている。そしてオプションのアンチロールスタビリティシステムであるポルシェダイナミックシャシーコントロール(PDCC)は、ハイブリッドの高電圧システムに統合されており、システムの柔軟性と精度が高められている。 スポーツプラスモードでアクセルを全開にすると、一切のラグタイムがなく加速していく。電動化の恩恵はアクセルレスポンスにあらわれている。ペダル操作に瞬時に反応してくれる。そして回頭性は極めて高く、わずかにステアリングを切り込むだけで向きが変わるPDCCをオンにしておけばロールも少なく、何事もないようにコーナーを曲がっていく。2WDと4WDとの挙動の違いは少なく、4WDだからアンダーステアが強いといったこともない。ニュートラルに旋回し、立ち上がりの際にはフロントタイヤに力強い駆動力を感じる。ブレーキはオプションのポルシェセラミックコンポジットブレーキ(PCCB)を装着していた。992.1ターボS用のブレーキでフロントは10ピストン!なのだから、その制動力は圧倒的だ。 ポルシェの本社広報によると、ハイブリッド化に関して顧客やファンから懸念する声が多くあがっていたという。しかし、500万kmにも及ぶテストをこなした自信作だという言葉のとおり、どうやら心配の必要はなさそうだ。言われなければすごくよく出来た自然吸気エンジンだと思う人もいるはず。それほどナチュラルだった。 文:藤野太一 写真:ポルシェAG Words: Taichi FUJINO Photography: Porsche AG
Octane Japan 編集部