東京から福島に来た17歳、念願の漁師に 処理水への不安抱えつつ夢追う
過去最多の新規就業者…なぜ?
実は原さんと同じように、昨年度、福島の沿岸漁業に新たに就業した人は統計を始めた2009年度以降で最も多い26人だった。このうち39歳以下の若年層が8割以上を占めている。原発事故をきっかけに漁業を継ぐ若い世代が減ってしまうという懸念が広がったが、実際は窮地にある福島の漁業を盛り立てようとする若い世代が増えたという。このように福島の漁業への新規就業者が増える背景について、福島県水産課の廣瀬充副課長は、水揚げ量が年々拡大していく福島の海が若い世代に魅力的に映っているのではと分析する。 「原発事故以降、漁獲を制限してきた福島県の漁業だが、今は生産の拡大に向けて取り組んでいる。そうした機運の高まりもあって若い人たちの就業につながっているのでは」。 福島県の沿岸漁業の水揚げ量はまだ震災前の25%ほどに留まっている。漁業の復興は道半ばで、若手の漁業者の増加は福島の漁業の追い風になり、水揚げ量の回復につながると期待されている。
東電の責任、福島の先輩漁師の責任
処理水の海洋放出はこれまでに約5万5000トンが福島の海に放出されたが、今のところ海水などから異常な数値は確認されていない。今問題となっているのは、原発の廃炉作業に関わるトラブルだ。去年10月には作業員に放射性物質を含む廃液が飛散し、2人が入院し除染することに。今年4月にはケーブルの切断によって停電が発生し、6時間半にわたり処理水の放出がストップするなど、トラブルが相次いでいる。こうしたことが国民の多くに不安を与え、風評を誘発しかねないと指摘する声もある。 若手漁師が増え、港が活気づき始めた一方で、相次ぐ原発のトラブル。船長の高橋さんは険しい表情で語気を強める。 「年間に若い漁業者が20人も入ってくる港は全国で見てもない。大事に育てて、将来まで頑張ってもらえるようにしたい。けれど、福島の海で生きる我々にとって、それは廃炉作業が安全に確実に行われているかに大きく影響を受ける。(東電には)そうした責任や自覚をしっかり持ってもらわないと」。 17歳の若手漁師・原さんを受け入れたからには、自らにも相応の責任があると高橋さんは言う。一人前の漁師に育てて、福島の海でしっかりと生計を立てていけるよう次の世代に引き継いでいくことが自分の責務だと話す。そんな船長を間近で見ながら、原さんは「いつか恩返しがしたい」と未来を見据えている。 「福島で漁をしたい気持ちが強い。高橋船長の下で色々学んで、魚が多く捕れる漁師になる。そして自分もいつかこの福島の海で船を持ちたい。」 処理水の海洋放出から1年。目立った風評は起きていないが、福島の漁業者たちに圧し掛かる風評への懸念は変わらない。一方で、福島の漁業は少しずつ変わり始めている。福島の海に魅力を見出し、そこに人生をかけようとする若い漁師たちが確実に育ってきている。