長渕剛、ニュー・アルバム『BLOOD』を引っ提げ全国アリーナツアー開催中「これからは笑顔で、君が笑顔になることをやりたい」
──特に長渕さんの場合は、キャリアの節目、節目で広く知られた曲があるので、きっといろんな世代にそういう方がいらっしゃるんだろうなと感じます。 コンサートには、もう三世代が来ますからね。親子三世代。お父ちゃんがちっちゃい子をおぶって、拳を上げたりしてね(笑)。あっ、四世代もいるよ(笑) ──当たり前ですけど、デビューした頃には想像もしなかった風景ですよね。 感じるのは、歌が浸透してることの喜びと、あとその反面、責任みたいなもの。こんなもの書いて失敗したなとか、責任取れねえなと思ったときもあったんですけど。ただ、そこぐらいはちゃんとやんなきゃよっていう気持ちも自分の中であって。人の人生の中に、ストンと自分の歌が入っているんだという意識というか、各自の心の中に入っていくものを作っているのだっていうことを、しっかり感じながらの45年でしたので。実は、自分の人生がお粗末で、少し乱雑で、人と同じような幸せを得ることができなかったんじゃないかなって思った頃もあったんですが、今は逆に、人の心に自分の歌が届いてるんだ、あるいは届けなきゃいけないっていう、そういう使命感みたいなものを幸せに思うようになりました。 ──そう思えるようになったきっかけはあったんですか。 僕の曲を聴いていた人たちも、僕と同じように歳を重ねていって、自然とそれぞれリーダー格になっていくわけじゃないですか。そういう人たちと出会う機会が、だんだん年齢とともに多くなってくるわけです。デビュー当初は背中を丸めて、田舎もんが都会に出てきて、冗談じゃねえよ、なめたら許さねぇぞ、みたいな気持ちでみんなつっぱっていました(笑)。僕もみんなが敵に思えた。だけどあるときから、そういう人たちと交流を重ねるようになったときに、人生の中に僕の歌があるんだっていうことを言ってくれる。味方がここにもいる、あそこにもいるというふうに思えたときに、まんざら敵ばっかしじゃねえんだと。僕は当然30代、40代には被害者意識みたいなものもありましたけども、でもそこを超えて歌だけは誠実に一生懸命、苦しみながら書いてきました。だから、こうやって仲間がたくさんいるんだというふうな思いに変わりましたね。 ──ご自身のキャリアを肯定的に受け止められるって、すごく大きいことですよね。 やっとじゃないですかね。まだまだ信じてないですけどね、自分自身を。作家としての自分自身を。いつも一曲書くたびに、いいわけがないって思うというのが僕の持論です。もういっぺん、寝てから明日もう一回考えよう、といろんな人にも聴かせるんですよ。 ──正直、長渕さんのようにみんなに知られた曲も非常に多いシンガーソングライターが、ご自身でそのように受け止めていることに驚きました。過去にどれだけ名曲があって今、新しい曲で満足できるかどうかが重要なんですね。 僕、一切その思いがないんですね。よく言われるじゃないですか。一曲ヒットすりゃ飯10年食えるぜみたいな。でも、そんな甘い世界じゃないんで、僕がやってきた世界っていうのは。やっぱり楽曲が売れて食えるとかじゃなくて、自分の生き方と、それから時代の反応みたいなものが同居してないと生きている価値がない。 ──そうなんですね。 そんなことばっかり考えますね。なのでYouTubeなんかもいろいろ試行錯誤して。確かに我々の時代と価値観も違うけど、そっぽを向くんじゃなくて、その中に入っていって、どう切り込んでいったら若い連中たちと話ができるかとか、そういうことを考えますね。 ──最近は、SNSも活発に活用されていますね。特にInstagramは、昔であればファンは見ることができなかった一面も多くアップされていますね。 おっかなびっくりでやってますね(笑)。これからどうなるかわかりませんけど。皆さん、生きているなかで、社会でいろんな経験をするじゃないですか。移り行く街並みの風景になにかを感じたり、季節感や風の匂い、人間のいろんな変貌、変化を感じながら社会生活を営んでる。僕の場合は、歌という手段でしか社会と密接な関わり合いを持てない。どうしても閉塞的な自分になってしまう。自分を押し沈めてしまった穴から、いろんな社会を見たとき、ここだと思って当て込んで詞を書くんです。その姿は……今、思うと痛々しいですよね。良い悪いでなくて痛いんですよ。それを300曲以上、どんなハッピーな歌でも痛みはありますから、300曲以上書いてきたときに今思うことは、彼らがそれを、それぞれの人生の中で楽しんだり希望の灯火として聴いてくれたっていうことが、僕にとっては……痛んでよかったと。これからは笑顔で、君が笑顔になることをやりたい、そういうふうな思いにすごくなりますね。それは若いときとはまったく違うところでしょうか。子供たちが笑うんだったら、この歌を歌ってあげたいとか。今あなたが泣いてるんだったら、自分の中からこの歌を歌ってあげたい。そういうふうな気持ちが強いんです。