DVで別れた元夫は、4歳の娘をなぜ道連れにしたのか 面会交流中の殺人、悲劇を無視して進む「親権」議論の危うさ
夫婦が離婚した後、子どもの親権を「共同親権」とする制度が導入される方向で、法制審議会(法相の諮問機関)の議論が進んでいる。離婚後も父母双方が子育てに関われるといった理由から法制化を求める声が強いが、ドメスティックバイオレンス(DV)の被害者らは「子どもの安全が守れない」と大きな危惧を示している。 【写真】「ちゃんとやってくださいよ!」怒号は、廊下まで響き渡り…
共同親権の導入は「世界の潮流」と表現されることも多いが、必ずしもそう言い切れない。面会交流中に子どもが殺害される事件があったオーストラリアでは最近、 子どもの安全を重視し、同居親の判断を重視する法改正がなされた。 同様の事件は日本でも起きている。2017年、兵庫県伊丹市で、妻へのDVが原因で離婚した元夫が、面会交流中に娘を殺害し、自らも命を絶った。共同親権が日本で導入されれば「同様の事件が起きるのでは」と懸念する声が上がるが、法制審議会では「特殊な個別事例」としてこの事件のことは議論されていない。 遺族である母は願う。「同じ思いを、絶対に誰にもしてほしくない」(共同通信親権問題取材班) ▽日常的なDV、ガラス片から必死に守った娘 殺害されたのは松本侑莉ちゃん=当時(4)。母絵美さん=仮名=が夫と結婚して3年後、つらい不妊治療の末にできた子だった。「奇跡的に1度目の体外受精で授かった。『私の所に来てくれたんや…』って思った」。喜びは今も鮮明だ。
ただ、結婚の数カ月後から夫のDVは続いていた。殴る・蹴るといった直接的な暴力はなかったものの、ささいなことで日常的に怒って暴れ、物を投げた。部屋は夫がぐちゃぐちゃにした物で散乱し、壁には穴が開いた。借金癖もあった。 「自分の思い通りにならないとキレる。外面は良く穏やかなのに、どうして一番身近な私にこんなに攻撃するんだろうと思っていた。私なら許してくれると思っていたのかな」 DVは次第にエスカレート。暴れて割った食器棚のガラス片が、侑莉ちゃんに降り注ぎそうになり、絵美さんが必死に抱きかかえて守ったこともある。 「侑莉が生まれてくれて唯一の味方ができたと思った。でも、早く離婚しないとDVの場面が記憶に残ってしまう」 離婚を決意したが、夫に頼むと離婚届を破られた。ようやく離婚できたのは、侑莉ちゃんが3歳の頃だ。 ▽増える要求、家裁が面会交流決定 絵美さんが親権者となり、侑莉ちゃんと一緒に実家で生活を始めた。その後、元夫から「娘に会わせてほしい」とメールが来た。