紀州のドンファン殺害、完全犯罪か事件性なき冤罪か 元妻に12日判決、間接証拠どう判断
「紀州のドン・ファン」と呼ばれた和歌山県田辺市の資産家、野崎幸助さん=当時(77)=に致死量の覚醒剤を飲ませて殺害したとして殺人罪などに問われた元妻、須藤早貴被告(28)の裁判員裁判で、和歌山地裁は12日、判決を言い渡す。検察側は遺産目当てに「完全犯罪」を画策したとして無期懲役を求刑する一方、被告側は全面無罪を主張。被告と犯行を結びつける直接的な証拠はなく、間接証拠のみから裁判員がどう判断するかが焦点だ。 【写真】「ボクの最後の女性になってくれませんか」とプロポーズ…野崎さんの著書 被告は9月の初公判で「殺していない」と関与を否定。3日間にわたる被告人質問では、野崎さんの死亡前月に薬物の密売人と接触したと認めつつ、「野崎さんから覚醒剤の購入を依頼された」とし、自殺や誤飲の可能性に言及した。一方、3カ月に及ぶ長期審理では28人の証人尋問が実施され、野崎さんの覚醒剤使用に複数の知人らが否定的な見方を示した。 検察側は論告で、被告が事件前に「老人 完全犯罪」「覚醒剤 過剰摂取」などと検索していた上、野崎さんが覚醒剤を摂取したとされる3時間余りは自宅に2人きりで、野崎さんが倒れていた2階と1階を普段より多く行き来したと指摘。購入依頼の話は「内容が不自然で、依頼された日の説明も変遷している」と疑問視し、密売人への接触は「被告自身が殺害目的で致死量を超える覚醒剤を入手しようとした」と主張する。 野崎さんは死んだ愛犬のお別れ会を死亡翌月に予定し、現場周辺で覚醒剤の容器なども見つかっておらず、自殺や誤飲の可能性を否定。動機は「離婚の可能性が高まる中、完全犯罪で遺産を手に入れようとした」とする。事件後、野崎さんの遺産から約6800万円を受け取り、ポルシェ2台を購入するなど約5500万円を使い、「強盗殺人罪と同等の悪質性がある」と指弾した。 ■金目的は認める これに対し弁護側は「薄い灰色を何回塗り重ねても黒にはならない」との例えを出し、証拠の不十分さを強調する。 犯罪などの検索履歴は、被告の趣味から猟奇的な事件を調べたに過ぎず、「覚醒剤の致死量や飲ませ方といった犯行手段と直結する内容は調べていない」と反論。仮にカプセルで致死量の覚醒剤を飲ませようとすれば最大で約30個必要で「本人の意思に反して摂取させるのは極めて困難」と事件性自体に懐疑的な見方を示した。