マーケティングの価値を一言で定義すると?
2022年11月、内閣主導で「スタートアップ育成5か年計画」が発表された。2027年をめどにスタートアップに対する投資額を10兆円に増やし、将来的にはスタートアップの数を現在の10倍にしようという野心的な計画だ。新たな産業をスタートアップが作っていくことへの期待が感じられる。このようにスタートアップへの注目が高まる中、『起業の科学』『起業大全』の著者・田所雅之氏の最新刊『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』が発売に。優れたスタートアップには、優れた起業家に加えて、それを脇で支える参謀人材(起業参謀)の存在が光っている。本連載では、スタートアップ成長のキーマンと言える起業参謀に必要な「マインド・思考・スキル・フレームワーク」について解説していく。 【この記事の画像を見る】 ● マーケティングだけで売れるものと 売れないものの違い 「マーケティングの理想は、セールスをなくすことだ」 ―ピーター.F.ドラッカー 出典:『マネジメント[エッセンシャル版]』ピーター.F.ドラッカー著、上田惇生訳、ダイヤモンド社より 世の中の8割の商品やサービスは、顧客と対面したり、電話で話したりして購買決定することなく、マーケティングを通じて「出会い」「購入」にまで至る。 たとえば、我々が普段コンビニ/スーパーなどに行って、様々な商品を目にしているが、そこではセールスパーソンに売り込まれることなく、購入に至るケースがほとんどだ。これは、それぞれの商品を取り扱っている企業のマーケティング施策の賜物であろう。 一方で、マーケティングのみでは売れない商材も、多く存在する。生命保険/自動車/不動産/大企業向けのSaaSプロダクトなど単価が高く、セールスサイクルが長いものは、セールスパーソンの提案力や、時に「人間力」などを推し量って購入の意思決定に至っている。 下図を見てほしい。縦軸はCPA*)を、横軸はユニットプライス(一定量あたりの単位価格)/LTV(ライフ・タイム・バリュー:顧客生涯価値)を表している。 ユニットプライス/LTVが低いプロダクトには、セールスではなく、マーケティングによって、その購買プロセスは完結する。 *)CPA:Cost Per Acquisitionの頭文字を取ったもの。顧客獲得単価の意味 不動産/生命保険のようなLTVが高い商品、あるいは頻繁に購入されず顧客の育成に時間を要するBtoB商品は「フィールドセールス」がモノを言う。 自社の顧客獲得を検討する際に、マーケティングのみで完結する商材か、それともセールスが必要な商材か、はたまたそのミックスなのかを見極める必要がある。 ● マーケティングの価値とは マーケティングの価値を一言で表現すると「顧客とプロダクトの最適な出会い方を演出すること」と考えている。 以前も述べたが、顧客がプロダクトの購入に至るまでには、以下の「5つの不」を解消する必要があると考えている。 不認知:そのプロダクトについて認知していない(知らない) 不信:そのプロダクトについて信頼がない 不適:そのプロダクトが自分に合っていない 不要:そのプロダクトが自分に必要ない 不急:そのプロダクトを今、手に入れる理由がない この状況のいずれかがボトルネックになっていると、マーケティング全体のパフォーマンスが落ちてしまう。 「課題の構造化」のところでも述べたが、「なんとなく売れていない」と全体をざっくりと捉えるのではなく、上記を切り分けて、どこに課題があるかを検証していく必要がある。 (※本稿は『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』の一部を抜粋・編集したものです) 田所雅之(たどころ・まさゆき) 株式会社ユニコーンファーム代表取締役CEO 1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップなど3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動。帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップの評価を行う。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。2017年スタートアップ支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役CEOに就任。2017年、それまでの経験を生かして作成したスライド集『Startup Science2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。2022年よりブルー・マーリン・パートナーズの社外取締役を務める。 主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』(ダイヤモンド社)、『御社の新規事業はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)、『超入門 ストーリーでわかる「起業の科学」』(朝日新聞出版)などがある。
田所雅之