過去の地球の公転軌道は “予想以上” に予測困難 恒星接近を考慮したモデルで検証
地球の公転軌道は長い時間の中で少しずつ変化することが知られており、過去に起きた極端な気候変動の原因となっているのかもしれません。しかし、公転軌道の変化を数学的に解析することは困難であり、過去の公転軌道を正確に予測できるのは5000万~1億年前までが限界であると考えられてきました。 今日の宇宙画像 しかし、オクラホマ大学のNathan A. Kaib氏とボルドー大学のSean N. Raymond氏によれば、地球の公転軌道を正確に予測できる期間はさらに約10%ほど短くなるようです。これまでの計算ではあまり考慮されていなかった、太陽系の近くを恒星が通過したことで巨大惑星の軌道が乱される影響を考慮した両氏は、5000万年より短い期間であっても正確な軌道予測が困難であることを突き止めました。
■地球の公転軌道を長期的に予測することは難しい
2024年はうるう年であり、前後の年と比べると1年の長さが1日だけ違います。ただし、これは地球の公転軌道が変化したわけではなく、地球の1年には約365.242日と端数があるため、その調整のために設けられた日数です。実際、地球やその他の惑星の公転軌道は安定しており、公転に関する数値 (公転の周期や軌道の形、およびそれらの変化率など) は、短期的にはほぼ固定の値と見なしても問題ありません。 しかし、数千万年以上という長い時間スケールの場合にはそうではありません。太陽と全ての惑星はお互いに重力で引っ張り合っているため、公転軌道の性質はごくわずかながら変化していきます。短期的には無視できるほどの小さな変化も、数千万年以上という長い時間スケールとなれば大きな変動として顕在化します。 惑星の公転軌道の変化のように、初期条件のごくわずかな違いが最終的に予測できないほど大きな結果の違いをもたらす数学の分野を「カオス力学」と呼びます。カオス力学が適用される非常に身近な例は天気予報です。明日の天気はほぼ正確に予測できても、1週間後の天気予報は大きく外れることもあるのは、気象現象がカオス力学の典型的なケースであるためです。 惑星の公転軌道も本質的にカオス力学であるため、はるかに遠い昔や未来の公転軌道を予測することは本質的に不可能です。効率の良い計算方法の開発やコンピューターの計算能力の向上によって予測できる範囲はどんどん向上しているものの、それでも過去の地球の公転軌道を正確に計算できるのは、これまで約5000万~1億年前までが限界であるとされてきました。 このような公転軌道の変化で特に関心がもたれるのは、どの程度のきつい楕円形になるかです (軌道離心率の変化) 。公転軌道がより楕円形になれば、太陽に対して最も近づく時と最も遠ざかる時の差が大きくなるため、地球の気候を直接変化させる可能性もあるからです。 特に関連性が指摘されているのは、今から約5600万年前に起きた「暁新世-始新世温暖化極大」です。この頃の地球の平均気温は現在より5~8℃も高く、多くの生物に絶滅または生息域の拡大という影響を与えたと言われています。暁新世-始新世温暖化極大が起こった理由は、具体的な証拠が見つかっておらず不明です。地球の公転軌道の変化は証拠が残りにくいため、逆説的に有力な候補となります。