渡辺恒雄さん すべて「老害」批判は勿体ない 瀕死のわが国のジャーナリズムは臨終を迎えてしまったのでは
【ドクター和のニッポン臨終図巻】 中曽根康弘氏が死んだのは、2019年、享年101。石原慎太郎氏が死んだのは、2022年、享年89。そして「昭和の怪物」と呼ぶべき最後の人が、年の瀬に旅立ちました。 【写真】巨人の試合を観戦する渡辺恒雄氏と長嶋茂雄氏 読売新聞グループ本社代表取締役主筆、元プロ野球読売巨人軍取締役最高顧問として、多大な影響力を持っていた渡辺恒雄さんが12月19日、東京都内の病院で死去されました。享年98。死因は肺炎との発表です。ほぼ老衰と同義の肺炎かと思われます。11月まで、定期的に会議にも出席したといいますから、最後まで頭脳明晰(めいせき)だったのでしょう。 2018年のこと。ネットに「ナベツネ死去」というニュースが流れたことがあります。僕はそのときすでに本連載を執筆していて、途中まで原稿を書いた記憶があります。途中でフェイクニュースと知り、慌ててデリートしながら、良かった、まだ生きていてほしいなと安堵(あんど)したものです。 プロ野球ファンにおいては特に、過激な発言が多かったゆえ、好き嫌いが大きく分かれる人物だとは思いますが、もう二度とこんな人は現れないと確信をもって言える、凄(すご)い人だったことだけは間違いありません。 しかし「老害」と批判する人も多くいました。僕も高齢者になってしまったから、何か発言すると、「老害」とネットで揶揄(やゆ)されることもあり少し傷つきます。 自分にとってウザイことを高齢者が発言したならすべて「老害」としてシャットアウト? それは、あまりにも勿体ないことなのではないでしょうか。 若い世代と同じ発言をしていても、年寄りが言えば「老害」。過去の貴重な体験を語り継ごうとしても、「昔話をするなんて老害だ」と…もちろん、やたらと話の長いお爺さんや、昔は美人だった、モテたなど自慢話ばかりのお婆さんは老害の域かもしれませんが。年上の人の貴重な経験は、今、混乱の時代を生き抜くためのヒントがたくさん詰まっているはずです。 それでもナベツネは老害だった!と思う人には是非、彼が残した著作を、改めて読んでほしいと思います。1945年4月、東京帝国大学(現東京大学)入学直後に学徒動員で徴兵。戦争の愚かさを身をもって知り、終戦後は一時共産党に入党するも若干26歳で政治記者として永田町に足を踏み入れた渡辺さん。その目で見たものは、日本の「戦後史」そのものです。渡辺さんの死によって、瀕死(ひんし)のわが国のジャーナリズムは臨終を迎えてしまったのでは。