羽田空港で自動運転椅子の実証実験、自動運転は社会に受け入れられるか
限られたエリアへの導入から、社会実装のヒントを探る
この羽田空港における取り組みからは、先端技術が社会に実装されて機能していくために必要なことが見えてきます。現在、テクノロジーの世界では人工知能、自動運転、ロボティクス、IoT(モノのインターネット)、シェアリングエコノミーなど様々な領域で先端技術の研究開発が進められていますが、その進化のスピードに対しては世の中の理解が進んでいない部分も多くあります。また、それを社会で活用していくためには現行制度の壁や安全性の担保など課題が山積していることも事実です。 しかし、羽田空港の試みのように限られたエリアに集中的に実装することで先端技術の有用性や課題を探るという作業は、様々なハードルをクリアしながら広く社会への普及に向けた道筋を探る大きなきっかけになるのではないでしょうか。 例えば、世界的に利用の拡大が進んでいる配車サービス「Uber」。一般人の自動車をタクシーとして活用するというこのサービスは、日本では旅客自動車に関する厳しい法規制やタクシー業界との摩擦、また安全性への不安などから本格的な導入に大きな壁が立ちはだかっています。 しかしながら、昨年にはタクシー事業者が撤退してしまった京都府京丹後市の過疎地域で、地域交通の課題を解決するためにUberの仕組みを活用して一般の車をタクシーとして活用し、年配者の市内移動を助ける“ささえ合い交通”という試みが始まっています。既存の交通機関と競合するのではなく、既存交通機関の代替としてUberを活用しようという取り組みです。
こうした限られたエリア、限られた利用者のニーズに応えるために最新のテクノロジーを活用し、世の中にその価値や可能性を理解してもらうという活動は、様々な先端技術について実践されていく必要があります。 自動運転についても、広く公道における解禁の是非を議論することは重要なことですが、一方で空港、公園、観光施設など安全性の担保ができる限られたエリアに導入し、課題や可能性を探りながら、その利便性に対して世の中の理解を得ることが重要ではないでしょうか。 日本空港ビルディングの志田さんは、「自動車メーカーをはじめとする先端技術を追求している企業には大きな期待を寄せている。自動運転をはじめとする先端技術を活用した移動手段の開発は大変進んでおり、実際に空港に実装されたものを利用者に体験してもらいながら、様々なフィードバックを得ていきたい」と語っています。羽田空港が取り組んでいる試みは、自動運転が未来の自動車社会を変える大きなヒントを生み出すに違いありません。 (執筆:井口裕右/オフィスライトフォーワン、撮影:倉増崇史)