「治癒は後でも、今ケアする」認知症発症率は子どものころの生活も影響、患者と介護者が今からできること
認知症の発症リスク
その記事の中で紹介していた認知症の発症リスクは、英国の医学雑誌『ランセット』の論文から引用している。『ランセット』には、その編集者が大学の研究者などの学術パートナーと協働して、科学、医療、国際保健における喫緊の課題を取り上げて研究し、その領域での医療政策や診療の改善について推奨を提供する「ランセット委員会(The Lancet Commissions)」というプロジェクトがある。 そのひとつとして、英国ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン、アルツハイマー病協会などの協力のもと、24人の国際的エキスパート(日本は入っていない)が、認知症の予防、介入、そしてケアについて報告された世界の研究結果(日本で行われた研究も入っている)からのエビデンスを批判的吟味し、独自に実施したメタアナリシスも組み合わせて報告書を出版したのである。17年出版の最初の報告書に続き、20年に追加の報告書が出版された。 17年版には9項目のリスク(教育期間の短さ[7%]、難聴[8%]、高血圧[2%]、肥満[1%]、喫煙[5%]、うつ病[4%]、社会的孤立[4%]、運動不足[2%]、糖尿病[1%])が、そして20年版では3項目のリスク(外傷性脳損傷[3%]、過度な飲酒[1%]、大気汚染[2%])が追加された。それぞれの項目の後に示した数字(%)は、もしそのリスクが除かれた場合に減少する認知症有病率である。 世界の認知症患者の40%でこれらの修正可能な12のリスクのどれかが関わっていると推計されており、これらのリスクをすべて修正することで、理論上40%の認知症の予防または発症遅延が可能である。 そして重要なことは、小児期・青年期での十分な教育機会の確保、成人期での高血圧や肥満を改善するための生活習慣の修正など、認知症の症状が認められない早期からの(いわば生涯にわたる)リスク軽減が高齢になってからの認知症発症予防につながるということである。