評価高まるアルゼンチンワイン、評論家が満点をつけた「マルベック」の1本とは
連載《なぞときワイン》
毎年4月17日は何の日かご存じだろうか。知っていれば、かなりのワインマニアだ。その日は「世界マルベック・デー(Malbec World Day)」。マルベックはワイン用の黒ブドウ品種の一つ。つまり、マルベックから造られたおいしいワインを飲んで、みんなでマルベックのお祝いをしましょうという日である。 【写真はこちら】評論家絶賛の1本をチェック! ほかにもおすすめが…
■アルゼンチンを代表するブドウ品種「マルベック」
マルベックはもともとフランス南西部で栽培されていたブドウで、今でも南西部カオール地方のマルベックはワイン愛好家の間では有名だ。だが、19世紀半ばに苗木がアルゼンチンに持ち込まれて栽培が始まると、現地の水に合ったのか、急速に作付面積が拡大。やがて、マルベックと言えばアルゼンチン、アルゼンチンと言えばマルベックと言われるほど、アルゼンチンを代表する品種に成長した。 世界マルベック・デーは、今から約170年前の1853年4月17日、アルゼンチンのメンドサ州議会にマルベックを軸にワイン産業の発展を目指す計画が提出されたのを記念し、アルゼンチンのワイン業界が制定した。こうしたことからも、マルベックがアルゼンチンにとっていかに特別な存在であるかがわかる。 そんなユニークな歴史を持つアルゼンチンのマルベックだが、産地の自然環境もこれまた世界に例を見ない。そして、そのユニークな自然環境こそが世界的にも高評価のワインを生む要因となっている。 アルゼンチンのワイナリー「アルトス・ラス・オルミガス」のブランドアンバサダーを務めるDipWSETの別府岳則さんは、2023年3月、現地を訪問した。南半球のアルゼンチンはちょうどブドウの収穫時期。日本で言えば9月ぐらいにあたるが、「昼間は半袖でちょうどよいくらい暑い。逆に夜はダウンがほしいくらい寒かった」と昼夜の寒暖差に驚いた。 寒暖差を生むのは標高だ。アルトス・ラス・オルミガスがあるメンドサ州は、アルゼンチンとチリを分けるアンデス山脈の麓に広がる。ブドウ畑のある場所は低いところで海抜400メートル台、最も高いところだと同1600メートルを超える。特に高品質のワインを生む畑は1000メートル以上のところに集中している。 メンドサはブドウの作付面積でアルゼンチン全体の75%、ワインの生産量で約3分の2を占める同国最大のワイン産地だ。世界の主要ワイン産地の中で、これほど標高の高いところは他にはない。 標高が高いと寒すぎてブドウの栽培に向かないこともある。物流費などのコストも余計にかかる。なぜ、そんなところで高品質のワインが大量に生産されているのか。答えは緯度だ。 ワイン造りに適した緯度は30度から50度の間とされる。その外側だと暑すぎたり寒すぎたりして質の高いブドウが育たない。南緯32度から33度付近のメンドサは緯度的にはギリギリだ。しかし、標高のおかげで暑さが和らぎ、高品質のブドウが安定してできる。一般に、標高が100メートル上がると、気温は0.6度下がると言われている。 標高の恩恵はそれだけではない。高地は紫外線が強い。すると、ブドウが有害な紫外線から身を守ろうとして果皮を厚くする。果皮にはワインを赤くする色素やタンニン(渋み)が含まれているため、高地で育った果皮のしっかりしたブドウからは、色が濃く、タンニンの豊富な赤ワインらしいワインができやすい。 また、果皮が厚いとその分、果肉が小さくなり、香りの成分がぎゅっと詰まった実になる。すると、一段と香りの豊かなワインになる。