現代劇の女方・篠井英介「舞台上演1ヵ月前に、著作権者から中止の通達が。9年かけてようやく上演できた『欲望という名の電車』。今後もやっぱりブランチをやりたい」
念願の『欲望~』の上演にこぎつけるまでに、実に9年の歳月が費やされた! ――著作権を取ってくださるエージェントに毎年電話したり、手紙出したり、付け届けしたり(笑)。 そしたらある日、当時の事務所の女性が、「アメリカでテネシー・ウィリアムズの他の作品のヒロインを男性が演じる」という記事を見つけてくれて。それを持ってエージェントに飛んで行って交渉してもらって、許可が取れたわけなんです。 僕の最初のブランチを、文学座の公演で杉村さんの相手役のスタンリーを演じた北村和夫さんが青山円形劇場まで観に来てくださって、「いやぁ、杉村さんを思い出したよ」って。もう滂沱の涙ですよ。 その後、杉村さんのブランチがニューオリンズの街に登場する場面の写真パネルを「やるよ」って、僕にくださった。 杉村さんの素晴らしさは、外国の芝居だということを忘れさせる力があるところです。日本語が美しくて楽しい。あの台詞回しとか息遣いは、聞いててもうワクワクしますからね。 三演目の『欲望~』の時は、スタンリー役が北村さんのご子息・有起哉くんでした。本当に声がよく似てて、だから毎日が幸せでしたよ。まるで自分が杉村さんになったみたいで。夜な夜なカセットテープを聴いてたころの夢が叶ったみたいでしたから。
◆女性の役はなかなか回ってこないから 篠井さんの女方の大役は、ほかにも『リア王』のコーデリア、『サド侯爵夫人』のルネ、『ハムレット』のガートルードなど。 ――『リア王』は鈴木忠志さんの演出で、リア王役がトム・ヒューイットでしたから、英語と日本語ごちゃまぜで。僕はコーデリア役で嬉しいんだけど、「女っぽくやらないでお能のように男でやれ」と言われて戸惑いました。 それから『サド』の演出はソフィー・ルカシェフスキーというフランス人の女性で、俳優は男6人でやらせていただきました。彼女はジャポニズムを入れたくて、ルネの登場シーンに花道を作らせたりしてましたね。 『ハムレット』のガートルードは、野村萬斎さんの主演の時。イギリス人の演出家だったけど、これも全部男優でした。 でもね、世の中には素敵な女優さんがいっぱいいらっしゃるから、なかなか僕に女性の役って回ってこないんですよ。なので、今度上演する『天守物語』のように、自主公演として、女主人公をバーンとやってみせるんです。 まぁ、歌舞伎の衣装や装置には敵わないから、いつの時代かどこの国かもわからないようにして、でも言葉は全部、尊敬する泉鏡花のままで。 僕がこうして自主公演を打つのは、「現代演劇で女方を生きる人間がここにいますよ」という、プレゼンテーションなんですよ。これだけはやっぱり、やり続けないと。 プレゼンテーションの結果として、今後やりたい役は? ――何でも好きな役をやらせてあげると言われたら、恥ずかしいんですけど、やっぱり『欲望~』のブランチなんですよ。 三つ子の魂百まで……しぶとく演じ抜いてくださいませね。 (撮影=岡本隆史)
篠井英介,関容子
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