年収1500万円の共働き世帯、10年で倍増 ワークマン・ライフ攻略へ
デフレからインフレへの転換点を迎え、安売りではなく付加価値で商売する時代がやってきた。日経ビジネスではインフレ下でも消費意欲が衰えず、高い購買力が見込める世帯年収1500万円以上の共働き家庭を「パワーファミリー」と定義。その消費行動と攻略法を徹底的に洗い出すことにした。 【関連画像】ワークマンの新業態「ワークマンカラーズ」は機能性とデザイン性を重視し、コスパが高いと銀座でも評判(写真=ワークマン提供) 最初に向かったのが東京・豊洲。ビジネス街の大手町や高級商業地の銀座に近く、タワーマンションがそびえるパワーファミリーの密集地帯だ。 4月のある金曜の夕方、食品スーパー大手ライフコーポレーションの「ライフ豊洲店」(東京・江東)の売り場には、豊洲市場直送の鮮魚を使った1000円を優に超えるすしの盛り合わせや、健康に配慮したライフ独自のオーガニックブランド「BIO-RAL(ビオラル)」の商品が目立っていた。 高所得者が多い土地柄なので高価格帯の商品が並んでいることに違和感はないが、よく見ると高級品ばかりではないことが分かる。 例えば1リットルの牛乳。259円の大手乳業メーカーの商品や、300円を超えるビオラルの商品が並ぶ一方、値ごろなプライベートブランド「スマイルライフ」の200円を切る牛乳も山積みされている。高価格帯から値ごろな商品まで、幅広く展開しているのが豊洲店の特徴なのだ。普段はスマイルライフの牛乳を買うが、たまにはプレミアムな牛乳を味わいたい──。そんな需要を想定している。 ●富裕層向けの戦略は通用しない パワーファミリーの消費意欲を刺激する、このスタイルを見いだすまでには試行錯誤もあった。 2022年4月、ライフは恵比寿三越の跡地に「セントラルスクエア恵比寿ガーデンプレイス店」(東京・渋谷)を開業。力を入れたのが1万円超の刺し身の盛り合わせや、希少な和牛肉といった富裕層が好みそうな超高級食材。それまで「松」「竹」「梅」の3ランクに分けていた価格帯のさらに上をいく、「寿」と呼ぶ商品群を並べた。 戦略は的中し、旧恵比寿三越を大幅に上回る売り上げを記録した。この成功体験を受け、ライフは同年9月開業の豊洲店でも高価格商品を重視した売り場をつくった。だが、出店から間もなく売り上げの伸びは止まった。理由を探ると「普段使いに向かない」と評価されてしまったことが分かった。 ライフは急きょ、普段使いに対応できる価格重視の商品を拡充。特売にも力を入れたところ、豊洲店の売り上げは再び上昇を始めた。興味深いのは高価格帯の商品も同様に伸びたことだ。値ごろな商品にうまく混ぜ込むことで、売り上げ全体が底上げされた。 同社の岩崎高治社長は「パワーファミリーは当然、顧客として有望視しているが、彼らは購買力があっても『バリュー・フォー・マネー(金額に見合う価値)』を重視する」と指摘する。高いものばかり並べては敬遠される。さりとて安い商品だけでは機会損失になる。試行錯誤の末に「メリハリ」の利いた売り場にたどり着いた。 野村総合研究所の調査では「食料品関連に積極的にお金を使いたい」と答えたパワーファミリーの比率は40%で全世帯平均より低い。本当に必要なモノや価値があると感じるモノにお金を配分する分、節約できるところは節約する。その代表が食料品なのだ。 共働きのパワーファミリーの平日はとにかく忙しい。仕事から帰れば子育てやキャリアアップのための勉強も待っている。高級すしを買っても味わう余裕はない。それなら余計な出費はせずに手ごろな弁当などで済ませ、休日に高級すしをゆっくり楽しむ。まさに「タイム・イズ・マネー(時は金なり)」。お金だけでなく時間にもメリハリを付け、極力無駄にしないように心掛けているのだ。 野村総研の調査では「多少値段が高くても、利便性の高いものを買う」との回答がパワーファミリーで6割近くに達し、全世帯平均(約4割)を大きく上回った。パワーファミリーの特徴を端的に表す結果と言える。 メリハリ消費を取り込むヒントは、自らの商品構成を見直すだけではない。周囲の競合店の客層・商品構成を観察し、あえてその逆をいって出店エリアにおける自らの存在を際立たせる戦略もある。