忘年会で泥酔した夫が同僚に抱きつき…突然「性犯罪者の妻」となり、仕事・金・家を失った40代女性の苦しみ
■被害者だけでなく、妹の将来にも多大な影響を与えてしまう 百合子は過去に性犯罪被害に遭遇した経験があり、被害者となった若い女性たちに同情していた。被害女性は、地方から出て来てひとりで暮らしている女性たちであり、事件の影響で通学や通勤に支障をきたしている女性も存在した。 「息子のせいで夢を諦めなければならなくなってしまうなんてあんまりです。お金で許されることでは到底ありませんが、彼女たちのために、できるだけの事をしてあげたいと思いました」 一方、夢を諦めなければならなくなったのは、加害者の妹だ。事件による出費で、彼女の進学先は大幅に制限されることになる。 「兄は行きたい大学に入って、事件起こしても親が弁償してくれて……。私は兄のせいで大学進学できるかもわからないし、一生、引け目を感じて生きていかなければならなくなりました。それでも親は、私のことなどまったく頭にないようです」 当団体の相談者の38%が「事件の影響で進学や就職を諦めなければならなかった」と訴えており、多額の出費のしわ寄せは子どもたちに及んでいる。 ■被害者に対する公的支援も十分ではない こうした家族の努力を加害者たちはどのように受け止めているのか。ふたつの事件の加害者たちは、「家族に申し訳ない」とは口にするものの、支払ってもらった金銭を働いて返す意志はないようだ。 ふたつのケースとも再犯を繰り返しており、家族の援助は更生の手助けどころかむしろ加害者の責任を曖昧にし、犯罪を助長しているとさえいえる。 一方で、本件のような性犯罪において、住居侵入されているケースでは、被害者は一刻も早い転居先の用意が望まれるが、加害者側からの支払いがない限り、公的な援助は乏しいのが現状である。それゆえ、加害者側からの支払いを受け取りたくなかったとしても頼らざるを得ない状況にある。 被害者側への経済的支援が十分ではない現状は、加害者家族をも追い詰め、加害者の責任を曖昧にするという悪循環を招いている側面がある。 故意の犯罪に適用される保険はなく、突然の事件に加害者家族は経済的な困難を抱えることになる。確かに重大事件の背景に、貧困や虐待が存在するケースもあるが、上記ふたつの事例では職場や受験のストレスが動機であって、誰しも直面しうる問題であり、異常な家庭からばかり犯罪が生まれているわけではない。決して、他人事とは言い切れないのが現実なのだ。 ---------- 阿部 恭子(あべ・きょうこ) NPO法人World Open Heart理事長 東北大学大学院法学研究科博士課程前期修了(法学修士)。2008年大学院在籍中に、社会的差別と自殺の調査・研究を目的とした任意団体World Open Heartを設立。宮城県仙台市を拠点として、全国で初めて犯罪加害者家族を対象とした各種相談業務や同行支援などの直接的支援と啓発活動を開始、全国の加害者家族からの相談に対応している。著書に『息子が人を殺しました』(幻冬舎新書)、『加害者家族を支援する』(岩波書店)、『家族が誰かを殺しても』(イースト・プレス)、『高学歴難民』(講談社現代新書)がある。 ----------
NPO法人World Open Heart理事長 阿部 恭子