<上西議員の除名> 離党した比例選出議員は辞職すべき?
政党か個人か
現在、衆議院議員には、「小選挙区で勝った人」、「小選挙区で敗れたが比例代表で復活当選した人」、「最初から比例代表で選ばれた人」の3つのタイプがある。後の2者は、政党名で競う比例代表で選ばれている。この人たちは、政党名で行われた選択の結果、議席を得たのであるから、離党という行動は選んでくれた有権者の意思に反する可能性が高い。 他方、小選挙区選出議員は、個人名を投票用紙に書いてもらい選ばれているが、実際に個人的な魅力や人脈で当選できる人は非常に少ない。制度的には、中選挙区時代と異なり、各党から1人しか立候補しないので、候補者を選ぶことと政党を選ぶことは同義である。政党政治が確立した今日、小選挙区選出議員もまた、政党名で選ばれていると見なすことができる。 政治意識の動向という観点からも、同じことがいえる。(財)明るい選挙推進協会は、「あなたは小選挙区選挙で、政党の方を重くみて投票しましたか、それとも候補者個人を重くみて投票しましたか」という質問を長年、世論調査で尋ねている。その結果をみると、「候補者個人を重くみて」と回答した人の割合は、年々減少し、近年では30%を割っているのに対し、「政党を重くみ」た人は、2009年には60%を突破している。実態から見ても、有権者の多くが政党名で選んでいるのである。
「候補者個人を重くみ」た場合でも、気になる点がある。現在、「政党支持なし」を自認する人の割合は、コンスタントに3、4割、時にそれ以上の数字を示すことがある。特に都市部や若い世代に顕著である。この人たちの多くは、候補者の政策や主張に是々非々で耳を傾ける「隠れ政策重視派」である。政策や主張を考慮する人は、政策がどこから出てきたのかという点や、その政策が実現する可能性を考えるであろう。ある政治家の主張が所属政党のマニフェストを丸写ししたような場合や、政党の力なしに実現できない政策を掲げていた場合、議員が離党した瞬間にその政治家の主張は信憑性を失ってしまう。政党ではなく候補者重視と言っても、政策故にその候補者を支持している場合、評価の基準は政策になる。人柄に惚れて候補者を支持する場合に比べ、はるかにシビアでドライだ。候補者個人を重視した人の中には、離党した議員の議員辞職に賛成する人は多いだろう。 つまり、「議員は選んだ有権者の代表」という立場で考えると、選挙区選出であれ、比例代表選出であれ、衆議院議員が離党した場合には速やかに辞職した方が良さそうだということが言える。 今後、この問題をどう考えれば良いだろうか。一つには、比例選出議員が離党した場合に失職することを法で決めることが考えられる。これに関しては、議員の離党を制限することで政党再編 を阻害するのではないかとか(比例選出議員を中心に、次々と離党と新党結成が続いた民主党政権末期を思い出してほしい) 、比例選出議員と小選挙区選出議員を区別して身分を規定することが許されるのかといった論点を考慮する必要がある。あるいは、法的規制までしなくても、各党が公約に謳い、所属議員に周知徹底する形も考えられる。慣例として確立すれば良いのである。ただ、この種の申合せが有効なのは、議員が政党の指示に従う動機を持つ場合、すなわち議員が再選を意識する場合である。最も手強いのは、再選を諦めた議員がひたすら何もしないと決めこんだ場合で、そうなれば、国民はなす術もなく、離党した議員を眺めるしかないのである。 --------------- 品田裕(しなだゆたか) 1963年、京都市生まれ。1987年、京都大学法学部卒業。2000年、 神戸大学大学院法学研究科教授。専攻は選挙研究。「2005年総選挙を説明する-政党支持類型から見た小泉選挙戦略」(『レヴァイアサン』39号)、「衆議院選挙区の都道府県間の配分について-最高裁の違憲判決を受けて代替案を考える-」(政策科学19巻3号)など。