「フラット8」をミドシップ! ポルシェ718 W-RS(1) ボクスターやケイマンのサブネームに
ボクスターやケイマンのサブネームになった718
718 W-RSほど、謎めいたポルシェは存在しないかもしれない。革新的な設計が施され、モータースポーツで不足ない勝利を収め、現行のボクスターやケイマンのサブネームにも引用されている。しかし、自動車史のなかで過小評価されてきたことも事実だ。 【写真】「フラット8」をミドシップ ポルシェ718 W-RS 904と917 同時代のスポーツモデルも (172枚) ハードトップを背負った718 GTRというクーペも、2台が作られた。惜しいことに、これは現存していないのだが。 マニア以外に知られていない理由の1つは、開発された時期が関係しているように思う。1960年代初頭のポルシェは、モータースポーツで進むべき道に悩み、少し手を広げすぎた状態にあった。 F1参戦を目指し、相当な時間とコストが費やされていたものの、ポルシェを率いるフェリー・ポルシェ氏の姿勢は積極的とはいえなかった。他方、同じく競争の激しいスポーツカーレースで、強さを証明したいという意志が強く働いていた。 そんな状況で、1960年から1961年にかけてファクトリーチームによって生み出されたのが、1957年のポルシェ718をベースとした特別なマシン。僅か2台の718 GTRと、1台の718 W-RSだった。 この3台に搭載されたエンジンが、2.0L水平対抗4気筒の587ユニットと、F1用に開発された水平対向8気筒の804ユニットを融合させた、タイプ771ユニット。開発を率いたのは、腕利き技術者のエルンスト・フールマン氏だ。
356や550とは異なる新鮮な美しさ
F1用エンジンの改良版を718のシャシーへ積むことで、ポルシェの技術力は最大限に発揮されることになった。同時に、耐久レースを前提とした8気筒ユニットの開発は、シーズンでの総合優勝を目指すという、同社の野心を示すものでもあった。 相手にしたのは、フェラーリやマセラティ。このプロジェクトを通じて、ポルシェのアプローチは変化していった。スタイリングにも、大きな進展をもたらした。 フェリーの長男で、実験的なF2マシン、シングルシーターの718 F2を設計したばかりだった若きブッツィー・ポルシェ氏は、自社のデザイン・スタジオで手腕を発揮。シュツットガルト・ツッフェンハウゼンで、新鮮な美しさを創出した。 ポルシェ356や550で見慣れていた丸みのあるラインは、低く伸びやかなシルエットへ一新。718 W-RSには、長く傾斜したフロントノーズと、ティアドロップ状のヘッドライト・カウルなどが与えられ、空力特性も強く意識されていた。 クーペの718 GTRでは、細く絞られたテールに、途中で切り落とされたルーフラインを採用。リアピラー部分には、大きなエアインテークが追加された。これらの特徴は、後のポルシェ904へ展開されていった。 スタイリングの好みは見る人によって様々だと思うが、筆者の目には、718 GTRよりW-RSの方が洗練され美しく映る。どちらも、ボディサイドでカーブを描くルーバーが目を引く要素といえる。