「土下座しろ!」カスハラ客に怒鳴られた学生アルバイト、「接客が怖くなった」と退職危機に…店が果たすべき“安全配慮義務”とは?【社労士が解説】
地元で評判の人気ファミリーレストランの店長Aさんは、温厚な性格でスタッフからの信頼も厚く、お客様からも愛されている存在です。週末ともなれば、店内は家族連れや友人グループで賑わい、活気に満ちていました。 【漫画】クレーマーを一発撃退…魔法の言葉は「ご連絡先を教えて下さい」 企業のカスハラ対策あれこれ そんなある日、混雑する店内で1人の中年男性客が「これは何だ!写真と全然違うじゃないか!」と怒鳴るトラブルがありました。どうやらメニューに載っていた料理の写真と、実際に運ばれてきた料理の盛り付けが異なっていたことで怒っているようです。 驚いたスタッフが作り直して再提供するように提案しますが、男性は聞く耳を持たず「この店はメニュー写真詐欺をごまかそうとしている」と言い、より一層激昂しはじめます。 状況を察知したAさんが駆けつけ、店長として真摯に謝罪をおこなうも、男性の怒りは一向に収まらず、その声のボリュームは増すばかりです。このままでは他のお客様にも迷惑になってしまうと考えたAさんは、「申し訳ありませんが他のお客様にご迷惑がかかってしまいますので、お帰りいただけますでしょうか」と男性に退店を促しました。 Aさんの言葉に、男性は渋々退店し一件落着したかに思えました。しかし数日後、Aさんが休みの日に男性が再び店を訪れます。そして男性の接客を担当した学生アルバイトのBさんに対して、前回同様に怒鳴りながら文句を言いはじめます。 男性のBさんへの文句はエスカレートしていき、ついには土下座を強要しはじめます。これに対して危険を感じた他のスタッフや常連客数名が、Bさんを守りつつ男性を退店させ、Bさんは土下座をせずに済みました。しかし、このできごとがきっかけとなり、Bさんは接客が怖くなってしまいました。そして後日、BさんはAさんに店のアルバイトを辞めたいと申し出ます。 Aさんは「もし自分がいればBさんを救えたのに…」という自責の念を感じていました。それと同時に、Bさんが辞めてしまう責任は店にもあるのだろうかと悩んでしまいます。このような場合、店もスタッフに対してどのような責任が問われるのでしょうか。社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに聞きました。 ーカスハラが原因で店側が責任を問われることはありますか 労働契約法5条にて「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と示されています。これを安全配慮義務と呼び、店側は労働者の心身の安全を守らなければなりません。 もしもBさんが、店側がカスハラに対して対策を怠っていたと訴えた場合、この安全配慮義務違反で損害賠償を求められてしまう可能性はあります。 ー店側はどのような対策をしておけばいいのでしょうか 厚生労働省が2020年に「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」を策定しました。この中で「顧客等からの著しい迷惑行為による被害を防止するための取組」が示されています。被害者のメンタルヘルス不調への相談対応、一人で対応させない、マニュアルの作成や研修の実施等の取組が有効とされています。 Aさんの対応が安全配慮義務違反となるかをここで示すことは個別案件なので困難ですが、今後のことを考えると指針に基づいた店舗経営をおこなうことをおすすめします。また、近年ではカスハラ対策方針を公表している企業が増えてきました。これらの企業のように対外的に確固たる姿勢を示すことも重要です。 ◆香川昌彦(かがわ・まさひこ)社会保険労務士 大阪府茨木市を拠点に「良い職場環境作りの専門家」として活動。ラーメン愛好家としても知られ、「#ラーメン社労士」での投稿が人気。 (まいどなニュース特約・長澤 芳子)
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