はるな愛「居場所を見つけて人生に彩りを感じた」生きづらさを感じる方と向き合う理由 #こどもをまもる
子ども食堂が子どもたちの“居場所”になってほしい
――はるなさんの小さいころは、どんな家庭環境だったのでしょうか。 はるな愛: 私は小さいころ、市営住宅の団地に、4人で住んでいたんですね。お父さんが借金をつくってきてしまう人で、すごく貧乏な生活をしていたんです。 電気、ガスといったライフラインを止められることは日常茶飯事だったのですが、お母さんがお仏壇のろうそくを立てて「今日は誕生日みたいね」と言ったり、シーチキンと白菜だけの“すき焼き”をつくってくれたり。そうしたお母さんの「少しでも楽しくしよう」というあたたかい気持ちを受け取って、「私もいっぱいお返しがしたい」という気持ちになったのかもしれません。 ――子ども食堂の運営は、ご自身の経験もきっかけになっているんですね。 はるな愛: そうですね。私の場合は自分の性について悩んでいたことも大きくて。「大きくなったらどうなるんだろう」とか「自分のことを誰もわかってくれない」という思いがある中で、食べていけない親の苦労もわかっていたし、親に心配をかけまいとしてわかっていないフリもしていたんですよね。 そういった経験があったからこそ、「子どもにちょっとでも夢を見てもらいたい」という思いが強くあるんだと思います。家や学校に居づらいときでも、「自分には他に居場所がある」と思えたら、気持ちが楽になるじゃないですか。私自身も、芸能界やニューハーフの世界といった“居場所”を見つけたときに、それまで生きづらかった世の中に彩りを感じられたんですよね。もちろん、居場所が一度見つかっても、そこが永遠の安住の地になるとは限らないんですけど、いろいろと苦戦する中で得た経験と出会いのおかげで今があるので。そういった意味でも、居場所の選択肢は少しでも多くあってほしいし、たくさんの人に出会える環境があるといいなと思います。
できる人が困っている人に合わせる気持ちが大切
――はるなさんご自身も性的マイノリティを自認されていますが、さまざまな境遇の方と関わる中で何か感じることはありますか。 はるな愛: 自分自身もまだまだ気付けていないことがたくさんあるなって思います。2021年の東京パラリンピック開会式に参加させてもらったときに、同じ楽屋にジェンちゃんという女の子がいて、「障がいっていう言葉は嫌だけど、ジェンちゃんの障がいの名前って何?」と聞いたら、「うーん、小人症かな」って言ったんですよ。「名前付けるとしたら、そんな感じかな」というくらいのニュアンスで。彼女は自分の背の低さも笑いに変えるようなムードメーカーで、自分の障がいをフラットに捉えていることに感銘を受けました。 そんなジェンちゃんとのエピソードで、とくに印象に残っているのは、スタッフさんが出演時間が書かれた香盤表を貼ってくれたときのことで。私は香盤表を立って見ながら自分の出番を確認していたのですが、ジェンちゃんはけっこうな時間が経ってから、黙って椅子を持ってきて、その椅子からテーブルに乗って香盤表を見たんですよ。そのときに「今まで気付かんかって、ごめん」と思って。 誰も間違ってはいないんですよ。香盤表って見やすい位置に貼るものだし、私も立って見るし。でも、ジェンちゃんにとっては高いんですよ。そういうときに、視線を低くできる私たちが合わせることができる。その気持ちが本当に大切なんだと気付きました。 ――さまざまな困難を抱えながら生きている人たちとともに生きていくためには、何が大切だと思いますか。 はるな愛: できる人が困っている人に合わせながら、社会をつくっていけたらいいですよね。目が見えない、耳が聞こえない、車椅子を使っているといったハンディキャップを持っていても、お互いにカバーし合えると思うと、すごく安心できるじゃないですか。子ども食堂も「できる人が合わせる」っていう気持ちが当たり前にあったら、受け取る側は「申し訳ないな」っていう気持ちを持たなくていいんですよね、お互い様だから。 私も今こうしてお仕事をさせていただいているからいいけど、お仕事もお金もなくなったときに、人のことまで考えられるのかっていったら大変だと思うんですよ。でも、気持ちがどれだけタイトになっても、人とのつながりがあれば気持ちが救われる。そのことを思い出せる自分でありたいですね。 ----- はるな愛 1972年生まれ、大阪府出身。タレント。松浦亜弥のコンサート音源を流し口パクで完コピする「エアあやや」で大ブレイク。以後ニューハーフタレントとしてバラエティ番組に多数出演。2008年にはCDデビューも果たす。タイで行われた「ミスインターナショナルクイーン2009」で世界第1位に。タレント活動のかたわら、お好み焼き屋や古着屋など5店舗の経営を行う。数年前からは子ども食堂活動に取り組むなど、各方面で活躍している。 文・佐々木ののか 制作協力:BitStar 「子どもをめぐる課題(#こどもをまもる)」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。 子どもの安全や、子どもを育てる環境の諸問題のために、私たちができることは何か。対策や解説などの情報を発信しています。