愛犬10年物語(1)「ただ見ているだけで幸せ」障害も日常に
そんなベーブだが、湘南に来て10年が過ぎた今、癌との戦いが始まっている。今年5月、外耳炎の治療で動物病院に連れて行った際に、口の付近にメラノーマという黒っぽい悪性の腫瘍が見つかった。除去手術を行ったが、その後肺へわずかに転移していることが分かり、口の中に新たな腫瘍ができた。今のところ小康状態で体調そのものに大きな変化はなく、食欲は旺盛だ。 日本の犬は、家庭で大事に扱われるようになった結果、年々長寿になっている。近年の死因のトップは、寄生虫による病気「フィラリア症」や交通事故に代わり、癌である。ほとんどの飼い主が愛犬の伝染病の予防や病気治療に熱心になったため、癌にかかる前に亡くなるケースが減ったという言い方もできる。これは、人間の場合と同じだ。癌を老化現象の一つと捉えれば、ベーブの場合も、14歳という年齢を考えれば致し方のないところかもしれない。
14年目の大旅行
「メラノーマが消える可能性があるのなら」と、この夏、放射線治療を決断。先日最後のセッションが終わったが、残念ながら目に見える効果は伺えなかった。「積極的な治療をしないで自然に任せるという判断もあったと思います。でも、年老いて以前より活発に駆けまわることが少なくなった今、ベーブの最大の楽しみは食べること。口の中の腫瘍なので、進行して食べられなくなってしまうのはかわいそう。できるだけのことはしていくつもりです」と、雅之さんは言う。
先日、思い立って愛車のフォルクスワーゲンのバンをフルフラットに改装。3人揃って約1週間の車中泊旅行に出かけた。暑い季節にはベーブを車に乗せないというポリシーを破ったかと思いきや、東北自動車道を一路北へ。2日目にはフェリーに乗ってすっかり秋めいてきた北海道に上陸した。そして、約一週間かけて函館、小樽、洞爺湖と道南を周遊。ベーブにとっては、こんなに長く家を離れるのは初めてのことだった。 旅の終わりが近づいた9月の最終日。旅先の家族写真が届いた。そこに写っていたのは、いつものベーブと石川夫妻の笑顔だった。