アイ・オーがCanonicalと協業、Ubuntu Pro for Deviceのプリインストール機器を販売
株式会社アイ・オー・データ機器(以下、アイ・オー・データ)は、Canonical Group, Ltd.(以下、Canonical)と、UbuntuによるLinux OS「Ubuntu」のライセンス契約で合意し、新事業を開始すると6月19日に発表した。Canonicalによる、商用ライセンス「Ubuntu Pro」を組み込み機器に対応した「Ubuntu Pro for Devices」プログラムに関するものだ。初年度で8億円の売上を目標とする。 【画像】アイ・オー・データの販売するUbuntuプリインストールデバイス ■ Ubuntu Pro for Deviceのプリインストールデバイスを販売、ライセンスのリセール事業も開始 具体的には、アイ・オー・データは、Ubuntu Pro for Devicesプログラムに基づいてUbuntuプリインストールデバイスを販売する。さらに、Ubuntu Pro for Devicesライセンスのリセール事業も開始する。 Ubuntuプリインストールデバイスとしては、RAID1ストレージの高信頼性モデルと、省スペースPCモデルの2機種を予定している。いずれも第12世代Core i3 CPUを搭載し、メモリを32GB搭載するのが特徴だ。 リセール事業としては、組み込みPCを販売するパートナーにライセンスを販売する。これによりパートナーは、Ubuntuのプリインストールの権利と、長期セキュリティメンテナンスの提供を受ける。 パートナー企業としては発表時点で、日本医師会ORCA管理機構株式会社、株式会社SRA、株式会社オプティム、サイバーステーション株式会社、株式会社Pyreneeが、今回の発表に関連した製品やソリューションを予定している。 ■ 安定したリリースと長期サポートからUbuntuを選択 同日開催された記者発表会には、アイ・オー・データとCanonical(動画およびリモート)のほか、パートナー各社も参加した。 株式会社アイ・オー・データ機器 代表取締役会長の細野昭雄氏は今回の新事業について、Canonicalと1年ほどの交流を経て、Canonicalが4月に「Ubuntu Pro for Devices」を発表し、日本でアイ・オー・データが提携することになったと説明。ユーザーの用途に応じてOSの選択肢を増やしたいと語った。 また同社 事業開発室 室長の堀英司氏は、背景として、クラウド依存に対するデータ主権・システム主権やエッジの活用の必要性を説いた。 また、これまでのプロプライエタリで作り込んだソフトに対して、世の中のデータの使い方が多岐にわたり、カスタマイズしたいという要望が出てきたと指摘。そこでオープンソースやエッジ処理の意義があると語った。 その中でUbuntuを選んだポイントとしては、安定したリリースと長期サポート(4月から最大12年のプログラムを開始)、さらにクラウド・コンテナ・AI・ロボットで広く使われていること、多数のソフトウェアの対応を堀氏は挙げた。その上で、Canonicalが開発し商用サービスを提供している点も重要だ。 今後の展開としては、NPU搭載のモデルや、学生向けのより小型でライトなモデルの案を堀氏は紹介。ただし、アイ・オー・データだけではさまざまな要望に応えきれないことから、パートナーとともに選択肢を増やしていくと語った。 ■ Canonical:組み込みやIoTの機器は、ソフトウェアで更新できることが求められるように CanonicalのSenior Vice President, Global Alliances, Channels & Industry VerticalsのRegis Paquette(レジス・パケット)氏は動画メッセージで登場し、Ubuntuにおいてパートナー経由のビジネスの重要性を強く感じていると語った。 さらに日本市場での課題として、Ubuntuはある程度知られていてもCanonicalの知名度が低いことと、Canonicalの限られた人員の2点を挙げ、日本でのビジネス拡大のためにアイ・オー・データのようなパートナーが必須だと説明した。 また同社のマーケティング担当副社長のThibaut Rouffineau(ティボー・ルフィノー)氏は、リモートから登場した。 現在の組み込みやIoTの機器では、デバイスをソフトウェアで更新することが求められ、そこにオープンソースの強みを生かして対応していくのがUbuntu Pro for Devicesだと説明した。 日本における組み込み向けUbuntuの事例としては、サイバーダイン株式会社が店舗用掃除ロボットにUbuntuを採用し、現地での手作業による更新を不要にした例をRouffineau氏は紹介した。また、NTTドコモは5G基地局におけるエッジでの低遅延AIのために、Ubuntu Proのリアルタイムカーネルを採用したと氏は語った。 ■ 日本医師会ORCA管理機構:WebORCAのプリインストールハードウェア パートナーとしては、まず日本医師会ORCA管理機構株式会社(以下、ORCA)が登場した。ORCAは医師が使うレセプト(医療機関が保険者に提出する月ごとの診療報酬明細書)のシステムで、汎用コンピュータ(サーバーはLinux、クライアントはWindowsやMac)で動きプログラムがオープンソース化されているのが特徴だ。 今回のアイ・オー・データの新事業にともない、ORCAとアイ・オー・データで、もともとUbuntuで動いているWeb版「WebORCA」をハードウェアとパッケージ化したものを用意する。アイ・オー・データがUbuntuプリインストールデバイスとして販売するRAID1ストレージの高信頼性モデルをベースに、Windowsと、その上のWSL(Windows Subsystem for Linux)で動くUbuntu Proをプリインストール。Ubuntu ProでWebORCAのサーバーを動かして、WindowsのWebブラウザーからアクセスできるようにする。 ■ SRA:3社による協業を開始 株式会社SRAからは、取締役 最高技術責任者の石曾根信氏が登場した。 同社は古くからUnix・LinuxやOSSに関わり、最近では最近はCanonicalとパートナー契約を結んでUbuntuのサービスを提供している。Ubuntu日本語サポートサービスや、Ubuntu上のソフト開発・OS移行支援サービス、OSS一括サポート、システム構築・運用・監視サービス、セキュリティ対策ソリューションがある。 今回の発表にともない、アイ・オー・データ、SRA、Canonicalの3社による協業スキームを開始する。CanonicalはUbuntuを、アイ・オー・データはUbuntu搭載のPC・NASを、SRA:Ubuntuのサポートや各種サービスをという形で協業するとのことだった。 ■ サイバーステーション:最長10年の供給を保証するデジタルサイネージ用STB デジタルサイネージクラウドサービス「デジサイン」を展開するサイバーステーション株式会社は、今回の発表に合わせて、Ubuntu搭載のデジタルサイネージ用セットトップボックス(STB)を台湾のiBASE社と共同開発開始すると発表し、展示していた。 これまで、Androidではサポート期間が限られることが、また組み込みWindowsではコストが大きくなることが課題となっていたという。そこでUbuntu Pro for Devicesにより、OSの長期サポートを実現する。iBASEも、最長10年のハードウェア供給を保証する、MediaTek「Genio510」CPUを搭載したSTBを開発する。これにより、最長10年間の継続的な供給とセキュリティサポートを提供する次世代デジタルサイネージSTBとして市場に投入するとのことだった。 ■ オプティム:映像解析をエッジで処理 株式会社オプティム(OPTiM)では、AIでカメラの映像を解析する「OPTiM AI Camera」を提供している。例えば店舗のカメラの映像から、客の年齢や性別を推測したり、その手にとる商品の傾向を分析したりするという。ちなみにサーバー側はクラウド上のUbuntuで動いているという。 今回、リアルタイム性を必要としない用途で、過去の録画映像からの分析を、エッジサーバーで行うものを参考展示していた。例として、ベランダの映像から人が危険な行動をとったのを検出する例がデモされていた。 ■ Pyrenee:UbuntuベースのAI運転アシスタント 株式会社Pyrenee(ピレニー)は、AI運転アシスタント「Pyrenee Drive」を展示していた。自動車を運転するときに、カメラ映像やセンサーの情報からAIが運転状況をリアルタイムに判断してドライバーをサポートするもの。説明によると、Ubuntuベースで開発しているという。
クラウド Watch,高橋 正和