声の専門家が選ぶ「現役最強のイケボ俳優」は? 決定版(5)軽くて跳ねる…プロが絶賛する稀有な美声の持ち主
男性は目で恋をし、女性は耳で恋をする―。英国の作家ウッドロー・ワイアットが遺した格言だ。この言葉の真偽はさておき、“いい声”が人の魅力を高めるのは確かなようだ。そこで今回は日本美声チューニング協会の三浦人美会長に「最高のイケボ俳優」の選出を依頼。そこから垣間見えたのは彼らの弛みない努力の跡だった。第5回。(取材・文:司馬宙)
高橋一生
―――ラストは、ドラマ『岸辺露伴は動かない』の岸辺露伴役が記憶に新しい高橋一生さんです。 「この方の声も私の好みですね(笑)。高橋さんはどちらかというとささやくようなセリフを言う場面が多い印象なんですが、あれだけ声が通って、なおかつ輪郭もはっきりしているのは、かなりの技術の持ち主です」 ―――高橋さんは、岸辺露伴や、ドラマ『ブラック・ジャック』(2024、テレビ朝日系)のブラック・ジャックなど、漫画のキャラクターを演じることが多い印象があります。この点は声質と関係しているんでしょうか。 「関係していると思います。感覚的ですが、高橋さんの声って、星野源さんの声同様、軽くて跳ねる印象なんです。で、一個一個の音が丸くてギザギザしていないので、クリアに聞こえるんですよね。この声質が、どこか飄々とした雰囲気を醸し出しているのかな、と思います。 ただ、個人的に、高橋さんに一番似合う役は、ミステリアスな役ではなく、ハッピーな役だと思います」 ―――では、西島さん同様、声の素質と求められる役が合っていないということでしょうか…? 「そうですね。顔立ちが端正なので、劇中ではダークで物憂げな雰囲気を醸し出していますが、プライベートはとても面白い方なんじゃないかと思っています(笑)」 ―――(笑)なんとなく分かる気がします。 「それから、高橋さんのような輪郭のはっきりした丸い声というのは、比較的珍しい声なんですね。特に最近の子どもたちの声って、本当に芯がなくて輪郭が薄めなんですよ」 ―――輪郭のなさというのは、どういうところからきているとお考えですか。 「一言でいうと、自信のなさですね。一昔前だと、自分の鬱憤や情熱を曲や演技に昇華させようという気概のある子どもが多かったんですが、今の子どもたちはどちらかというと、表現する前から諦めてしまっている感がある。 私もこれまでたくさんの生徒を見てきましたが、最近は自分の限界をはじめから決めてしまって、役柄を自分から狭めてしまっているような子どもが増えている印象があります」 ―――声からマインドがわかるというのはとても面白いですね。 「そうですね。私は、『発声解剖学』という科学が専門ですが、やっぱり最終的にキモになってくるのは、数値化できない感情だと思います」 ―――深いお話ですね。ちなみに、最後に、「よく通るささやき声」を習得するには、どのようなトレーニングを行えばよいでしょうか。 「これも、表情訓練あるのみですね。鏡の前で表情を作りながら、これ以上声を出したら輪郭がつぶれる、というポイントを見極める。もう、回数を重ねるしかないです。 今は『タイパ』という言葉も流行っていますが、結局は、しっかりと研鑽を積まないと、声は良くならないということですね」 ―――ローマは一日にして成らず、というわけですね。ありがとうございました。 【日本美声チューニング協会三浦人美会長 プロフィール】 発声解剖学をベースにした声を出しやすい身体に整える美声チューニング®を提唱。20代はバンドのボーカルとして芸能事務所へ所属。年間300本のライブをこなし歌い続けた経験の中で発声・姿勢・呼吸等、身体のアプローチから声を変えていく手法を実践。バンド活動の終了後は、講師として稼働をスタート。人前で声を扱うことが多い企業代表や芸能事務所所属のアーティストレッスンまで延べ3,000 人以上の方を指導する。
司馬宙