都知事選の政見放送を見て呆然…「NHKvs.NHK党」必死の攻防戦と、ここまで無秩序になった「歴史の必然」
争点はない、与野党対決すら怪しい
そこには、都知事選において争点がなくなったということも影響している。 マスメディアは、小池と蓮舫が有力であることから、それを与野党対決ととらえている。たしかに蓮舫の方は、立憲民主党と共産党、社民党が支援しており、野党系の候補者になる。 だが、小池は、自らが結成した地方政党の都民ファーストが母体で、与党である自民党と公明党は自主支援にとどまっている。しかも、本来なら立憲民主党に同調するはずの連合は、共産党を嫌って小池を支持している。 果たして、これで与野党対決と言えるのか、それ自体が怪しい。 蓮舫が都知事選に名乗りをあげた時点では、明治神宮外苑の再開発問題を第1の争点にしようとした節がある。ただ、蓮舫の選挙公報を見てみると、「神宮外苑の再開発を見直して、大切な緑を守ります」とあるものの、それは7つあげられた公約のうち6番目で、さほど重視されていないようにも見える。蓮舫は、これを争点にするのは難しいと判断したのではないだろうか。 神宮外苑の再開発について、私は昨年7月、『現代ビジネス』に「実はヤクルト・スワローズのおかげで明治神宮はなんとか維持、だから非難されても外苑再開発に突き進む」を寄稿した。 神宮外苑は、宗教法人である明治神宮が所有するもので、その存在意義は、神宮内苑、つまりは神社としての明治神宮を維持することにある。外苑の神宮球場は、明治神宮にとってもっとも重要な収入源である。だからこそ明治神宮は、神宮球場を取り壊さないでもすむ形での再開発に乗ったのである。 つまり、神宮外苑は東京都のものではないし、都が事業の主体というわけでもない。事業認可の権限はあるが、現在、事業者から樹木保全策の提出されていない。事業は中断した状態になっており、小池がゴーサインを出したわけでもない。とても都知事選の争点にはならないのである。
民主主義の行きつく先は無秩序という歴史の法則
人が選挙にもっとも力を入れるのは、そこに利害がからんでいる時である。昔、村の選挙が過熱したのも、村長が変わることで村役場の人事が一新され、村が行う公共事業を受注する人間も変わったからである。 膨大な有権者による都知事選では、そうしたことは起こらない。都知事選が人気投票になってしまうもう一つの要因はここにある。誰が当選しても、それによってより多くの利益を得られる人間がほとんどいないのだ。少なくとも、一般の都民には誰が当選しようと変化は起こらない。 イギリスやアメリカには「保守主義」の伝統がある。これは、フランス革命を批判したイギリスのエドマンド・バークに遡るものである。バークは、フランス革命によってフランス国民は主権者になったものの、いつ殺されるかわからない奴隷になったと指摘した。 保守主義の立場からすれば、民主主義を追究することは、無秩序の状態を生むことになり、極めて危険であるということになる。その点では、今回の都知事選は、もっとも民主主義的なものなのかもしれない。バークが現代に蘇ったとしたら、都知事選の掲示板の前に立ち、「ほれ見たことか」と深くうなずくに違いない。