都知事選の政見放送を見て呆然…「NHKvs.NHK党」必死の攻防戦と、ここまで無秩序になった「歴史の必然」
ここまで、ばかばかしくなるものなのか
今回の都知事選ほどばかばかしい選挙はない。選挙公報を見ると、つくづくそう思う。 とにかく目立つのは、NHKから国民を守る党(NHK党)の党首である立花孝志の文字である。そこには、「NHKに受信料を支払う人は馬鹿だと思います」と書かれている。この党からは24人が立候補しているが、候補者の名前と写真以外、その内容は同じである。 【写真】だから非難されても外苑再開発に突き進む しかも、「NHKをぶっ壊す!」という党のスローガンの下には、「あなただけのオリジナル選挙ポスターを貼りたい」という人は、党のホームページから申し込むように記されている。 実際、そこを見てみると、東京都内におよそ1万4000箇所ある選挙ポスターの掲示板のうちの一箇所に、一口2万5000円以上で24枚のポスターを貼ることができるとされている。 その結果、掲示板には候補者とはまったく無関係のポスターが貼られることになった。動物のポスターもあるが、なかには風俗店のポスターもあり、さすがにこれについては、警視庁が立花に警告している。 これは、公職選挙法がまったく想定していない事態である。今後どうなるかは分からないが、今回の選挙については、手の施しようがない。選管には、こうしたポスターについて1200件以上の苦情が寄せられているという。 ほかにも、NHK党とは無関係だが、ほぼ全裸の女性のポスターを貼って、警視庁から警告された候補者もいた。その候補者の公約は「一夫多妻制」である。もっとも、掲示板は有権者が見やすいところに設置されているわけではなく、行政の所有する土地など、立てやすいところばかりに立っている。多くの掲示板は広告効果はなさそうだ。
NHK、必死の防戦
NHK党は24人の候補者を立てることで、政見放送についても多くの枠を獲得した。それを使って同党の多くの候補者は、「NHKをぶっ壊せ」とほぼ同じ内容の訴えを行っている。 ただ、NHKの側もこうしたことに黙っているわけではない。政見放送は義務で、放送しないわけにはいかないが、放送する時間帯を変えてきた。そこには、NHK党以外にも立候補者が多く、総勢56名にのぼったことも影響しているだろう。 今回、NHKの総合テレビでは、政見放送を朝の6時台と夜の11時台に集中させている。前回の選挙では、夜は10時30分からだったので、30分遅くしたことになる。 NHK党がはじめて候補者を立てたのは、2016年の都知事選からだが、さらに遡って2012年の都知事選になると、政見放送の時間は昼の12時25分から45分までだった。NHKの側は、有権者になるべく政見放送を見せない対策を施してきたように見える。 しかも、候補者の経歴放送と、政見放送の紹介は、AIアナウンサーが行っている。局のアナウンサーに、NHKを批判する内容の文章を読ませたくないのだろう。 これではまるで、都知事選はNHKとNHK党が戦っているかのように思えてくる。東大准教授の斎藤公平などは、こうしたことについて、「民主主義に対する挑戦だ」と憤っているが、憤るのもばかばかしい事態が生まれている。