「医師の定員増」に韓国の医師が強く反発するワケ
韓国で、医師たちが職務を投げ出して病院から姿を消す動きが止まらない。手術は次々と延期され、救急医療の担当医がいなくなったために病院をたらい回しにされた高齢者が命を落としたという痛ましいニュースまで伝えられている。 それでも、大勢の医師が白衣を着直すのを拒む。この明らかに異常な状況については、韓国のみならず日本や欧米メディアも驚きをもって伝えている。 ■世界を驚かせた職場放棄の波 これまでの展開をざっと振り返ると、まず2024年に入って尹錫悦政権が大学医学部の総定員を増やす方向だと伝えられると、これに反対する医師たちの抗議活動が起き始めた。しかし政権側は、2月6日に医学部の総定員を現在の3058人から2000人増やし、5058人にする方針を発表した。
これに医師たちが猛反発、職場放棄も辞さない強硬姿勢を打ち出した。実際にストの先陣を切ったのは研修医たちだ。2月半ばから各地の病院で出勤を拒む研修医たちが出るようになり、同月下旬にはその数が9000人にも膨れ上がった。 それでも政権側が医学部の定員拡大という方針を崩さないと、職場放棄の波は医師たちにも広がり、そして3月25日には医学部教授たちが一斉行動で辞表提出……とエスカレートしてきた。 教授たちの場合、正確な辞職の数を把握するのは難しいものの、例えば韓国中部・忠清南道天安市にある大学病院では、勤務する233人の教授のうち93人が辞表を出したというので、やはり尋常ではない。
尹政権は医療界(大韓医師協会や全国医科大学教授協議会など)と話し合いを重ねてはいるが、「2000人増員」という看板を下ろす考えはないとしており、医師たちと真っ向から対立したままだ。病人やけが人がいわば人質となったような形で政権と医療界のチキンレースが続いている。 ■都市部と「ピ・アン・ソン」に医師が集中 尹政権が医学部の定員拡大を掲げたのは、韓国の医師不足、とりわけ地方での医師不足に対応するためだと説明している。確かに、2021年のデータで人口1000人あたりの医師の人数は2.6人で、OECD(経済協力開発機構)加盟国の平均3.7人をだいぶ下回り、加盟国の中で下から3番目となっている。