ノンバイナリー公表した社員の戦い「LGBTQ+当事者の声で会社を変えたい」
オランダ留学きっかけにカミングアウト
九野さんは、LGBTQ+に関する社内コミュニティの設立者の一人だが、自らが声を上げる大切さを知ったのは大学時代の留学がきっかけだった。 国際教養大学の学生だった九野さんは、大学カリキュラムの一環で、卒業までに1年間の留学が義務付けられていた。 九野さんは留学前までは、自身のセクシャリティや性自認についてカミングアウトはしていなかったが、21歳だった大学3年生のときの、オランダ留学が人生観を一変させた。 「欧米のクラスメイトたちが、自然にカミングアウトしている姿が印象的でした。オランダは世界で初めて同性婚が認められた国。大学にレインボーフラッグがあり、カミングアウトも普通のことで、自分を肯定してくれる1年になりました」 留学を終えて帰国した九野さんは「隠す必要がないかな」と思うようになり、周囲へのカミングアウトをためらわなくなった。 「たまたまかもしれませんが、私と同じように留学から帰ってきてカミングアウトした友人もいました。そしてそのまま就活に突入しました」 九野さんは新卒で入社した大企業でも、同期入社となる新入社員たちの前でカミングアウトしたという。 「言いたくて言ったというよりも、新人研修の期間中、同期の間で『ゲイいじり』みたいなことが何度かあったのを聞いて、すごく居心地の悪さを感じていました。 そこで研修の最後の日に『私は当事者で、嫌な気持ちをした。これから多くの人と関わると思うので、当事者は当たり前にいるということをみんなに知っていてほしい』とスピーチしました。今思うと、よくやったなと思いますが(笑)」
社員コミュニティーが必要な理由
WHIに転職した九野さんと協力し、社内でLGBTQ+への理解増進のためのコミュニティを立ち上げたのが平田さん(26)だ。 平田さんは2022年に新卒でWHIに入社、大学時代は早稲田でジェンダーやクィアスタディーズなどを研究し、就職先を選ぶ段階でもダイバーシティへの取り組みを重視して企業選びをしていたという。 平田さんは大学時代にもコミュニティ運営を担っていた経験があったことから、九野さんに声をかけ、社員コミュニティを立ち上げた。 「制度を整えるのも大切なことですが、社員一人ひとりが何のために制度が作られたのかを理解できていないと、意識は変わりません。当事者だけが、例えば同性カップルの福利厚生制度を理解するのではなくて、なぜ会社としてそれが必要なのか知ってほしい。 コミュニティを作ることで社員同士、同じレベル感で伝えていく必要があると思っています」(平田さん) 「UniQorns(ユニコーンズ)」という名前の社員コミュニティでは、これまで定期的に勉強会を開いたり、6月のプライド月間に合わせた社内イベントを開催したり、社内チャットでの情報発信をしたりと啓発活動を続けてきた。コミュニティには現在約120人が参加している。 平田さんは「LGBTQ+当事者の声に頼ってしまっているのが現状。アライとして声を上げる重要性をもっと伝えていきたい」と、コミュニティのさらなる拡大を目指す。 「アライは当事者の声を拡声器みたいに広げられる存在です。コミュニティを運営する側も成長し、体制作りを進めていかないといけないし、もっとメンバーを増やしてよりサポーティブな層を社内にどんどん増やしていきたい」(平田さん)
D&I「自分とは違う世界と感じてしまいがち」
九野さんや平田さんは、社員コミュニティを作るだけでなく、経営層に声を届けることにも注力してきた。 そんな彼らと経営の橋渡し役を担っているのが、CHROの八幡誠さんだ。 八幡氏は日本マイクロソフトや現在のセールスフォース・ジャパンなど外資系企業の人材開発など人事畑でキャリアを積み、2023年に現職に就任した。
横山耕太郎