キャンプの外の「難民」たち 「中東の平和国」ヨルダンでの暮らし
支援の輪は口コミで広がった。NGOが拠点を置くイタリアからは有名ファッションブランドのデザイナーが手伝いを買って出てくれるようになり、洗練されたデザインの高品質の品ができるようになった。商品の幅も徐々に増え、買い手も増えた。 少女たちを支援するプロジェクトが軌道に乗ると、次は男性たちの居場所づくりが課題となってきたという。そこでアンナマリアさんらが考案して作ったのがイタリアン・レストランだ。男性らはここで、イタリア人のシェフからピザをはじめとする本格的なイタリア料理の調理法を学んだり、接客の仕方や英語などの言語を覚えたりすることができる。
自分は「何かを成しえている」
「イラクから逃れてきた若い人たちに、時間を無駄にしたと感じないようにしてほしいんです。突然日常を奪われたがために、学校にも途中で行けなくなった若者が大半です。将来への展望もなく目的もない日々で、精神を病む人もいます。ここに来ることで自分が何かを成しえていると感じてもらうことが、スキルの習得以上にとても大切なんです」
ヨルダン国内でイラクからの避難民として正式に登録されている人は、2019年11月30日現在で6万7221人となっている(UNHCR調べ)。しかし難民登録がなされていない人を含めると、その数は正確には把握されておらず、70万人とも100万人以上とも言われる。 「彼らは支援の枠組みからこぼれてしまった人たちです。ですから、私たちのような支援やプロジェクトを余計に必要としています。彼らの境遇をもっとたくさんの人たちに知ってもらいたいんです」 一方、今後の支援活動の展望を聞くと、アンナマリアさんはこう言い切った。 「このプロジェクトが必要なくなることです、逆説的ですが。私たちの支援が必要なくなることが一番の希望です」 (取材・文:村松まどか)