キャンプの外の「難民」たち 「中東の平和国」ヨルダンでの暮らし
襲撃も やむ無く村を後に
情勢はさらに悪化。ファティマさんらが住んでいた村は襲撃の危険にさらされたため、一家は近郊の別の村に避難することにした。 報道などを通じてファティマさんらの身を案じたアンマンの友人から、自分たちのところへ身を寄せるよう提案の電話がかかってきたのはその頃。ヨーロッパへ渡るには「違法手段を使って海を渡るしか方法がなかった」(ファティマさん)ため、家族3人でヨルダンへ難民として渡ることを決意した。 「息子は外に出るのを怖がって学校に行くことができなくなりました。私たちから離れようとしなくなったんです。息子が学校に行けるように。それを一番に考えました」 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)公表の資料によると、シリアからヨルダンに難民、または避難民として正式に登録されているのは約65万人(2019年11月30日現在)だが、未登録の避難民などを含めると130万人に達するとも推定されている。ヨルダンの人口が約1000万人であることを考慮すると、相当数が難民や避難民としてシリアからやってきていることが分かる。
ひとまず確保された「安全」 でも生活は…
毎晩空爆の音が聞こえたり、襲撃に怯えたりしていた暮らしを逃れ、「ヨルダンでは安心して暮らせる」とファティマさん。現在は、1人当たり月に15ヨルダンディナール(日本円で約2300円程度。2019年12月現在)の食事券がもらえるのみだといい、生活を成り立たせるのが苦しいと訴える。
UNHCRによると、2016年から2019年11月現在までの間、ヨルダン政府は15万9000件以上の労働許可を難民らに発行してきた。生活資金の援助も行われているが、最新の調査(2019年3月公表)によると、難民の約78%が貧困ライン以下の生活を送っているという。 また、シリア難民を現地で支援するNGOによると、逃れてきた人々の多くは本国ではいわゆるホワイトカラー職についていた人だが、避難先では就業できる職種は主に一次産業に限られる。家賃などを含め日々の生活費を稼ぐのが難しい家庭が多いのが現状だ。ファティマさんの息子のように、避難先で大学などの高等教育を受けている例は決して多くはない。