金融機関のコンプラ対応コストは2,000億ドル以上 SedricなどコンプラAIがもたらすコスト削減効果とは?
コスト増大、金融業界のコンプライアンス課題
規制環境の急速な変化と金融犯罪の高度化を背景に、金融業界におけるコンプライアンスの重要性はこれまでにないほど高まっている状況だ。一方で、コンプライアンス遵守におけるコスト増大も無視できない課題となっている。LexisNexisの調査によると、2023年時点で、世界の金融機関が負担するコンプライアンスコストは2,061億ドルに達した。 コスト増大の要因の1つとして指摘されているのが、規制環境の変化スピードの加速だ。金融機関の適応能力を上回る速度で、規制環境が次々に変化しているのだ。この状況下、手動で行う既存のコンプライアンスプロセスは限界を露呈しつつある。 Drataの報告によると、コンプライアンス専門家の16%が手動プロセスをコンプライアンスの大きな障壁として指摘し、さらに15%が連携不足のテクノロジーを課題として挙げている。これらの数字は、多くの金融機関がいまだに効率的なコンプライアンス管理システムを構築できていない現状を浮き彫りにするものといえるだろう。 こうした課題に直面する中、金融サービス業界はAI技術への投資を加速させている。Statistaによると、2023年には推定350億ドルがAI技術に投資されたという。その相当部分がコンプライアンスとリスク管理関連のソリューションに割り当てられた可能性があるとされる。 AIの導入は、コンプライアンスプロセスの効率化だけでなく、監視能力の向上や運用コストの削減にもつながることが期待されており、今後もAI技術への投資は増えていく見込みだ。Wifitalentsの試算では、金融産業のコンプライアンス作業におけるAI活用(自動化)が本格化すれば、2030年までに4,000億ドル以上を節約することが可能になるとされる。他のミドルオフィスタスクを含めると、削減できるコストの額はさらに増える可能性があるという。
コンプライアンス分野で注目されるスタートアップ、Sedric AI
金融サービス業界におけるコンプライアンスの重要性が高まる中、AIを活用したソリューションを提供するスタートアップが台頭している。その中でも特に注目を集めているのが、金融サービス向けの専用コンプライアンス大規模言語モデル(LLM)を開発するSedric AIだ。 2020年にイスラエルで創業され、これまで主に中東・アフリカ地域を主要市場として活動してきたフィンテック企業。しかし、最近では米国や欧州でも注目度が高まっている。 Sedricは、コンプライアンス担当者に対して、顧客とのあらゆるコミュニケーションを統合的に監視・分析する機能のほか、コンプライアンスポリシーやガイドラインからの逸脱を検出するLLMを開発・提供。この技術は、企業固有の要件にカスタマイズすることが可能で、ポリシー施行の自動化に加え、逸脱の軽減や監査の合理化を促進できる。 同社の成長は目覚ましく、2024年9月には1,850万ドルの資金調達に成功。この資金調達にはアメリカン・エキスプレス・ベンチャーズも参加しており、同社の累計調達額は2,200万ドルに達した。注目すべきは、Sedricが過去12カ月で収益を5倍増加させたことだ。米国や欧州の大手金融機関を含む顧客基盤を急速に拡大しているという。