日本一のものづくり愛知 英国「EU離脱」余波 警戒続く中小製造業者のいま
イギリスがEU(ヨーロッパ連合)離脱を決めた国民投票から3週間。製造品出荷額38年連続全国1位で、日本のものづくりを支える愛知県で、多くの中小製造業者の頭をよぎるのが、かつて体験したリーマンショックの不況だ。EU離脱の余波は、どこまで及ぶのか。円相場の推移を不安視しながら、過ごしている。
頭よぎる「リーマンショック」
「リーマンショックの時のように、ならないだろうか」―。 7月上旬、ある製造業幹部が嘆く。イギリスの国民投票後、外国為替市場では投資家がリスク回避のため安全資産とされる円を買ったことなどから、急速に円高ドル安が進んだ。円相場は一時、1ドル=100円を割り込む場面もあったことから、国内の大手輸出企業に部品を卸している愛知県内の中小の製造業からは、経営へのマイナスの影響を懸念する声が上がった。
過去の円高では大手が生産を海外に 受注減、値下げ要請も
日本のものづくりの中心地、愛知県(製造品出荷額38年連続全国1位)。ここの製造業が恐れる2008年のリーマンショック当時、円高対策やコスト削減をするために、大手企業は生産の主体を海外に移した。このため国内の下請け業者は、受注が減ったり、値下げの要請を受けたりした。 大手自動車メーカーや関連企業が立ち並ぶ愛知県西三河地域。中小の製造業が集まる通称・和泉工業団地で、自動車エンジン部品の金型製造や整備を行うアムト(安城市和泉町)は従業員約20人の町工場だ。芦原章吾専務は「周囲の会社の人たちとも、円相場の推移は話題になる。いまは様子見ムードが広がっている」と、市場の動きを注視する。 リーマンショック以前の受注量が100とした場合、現在は80ほどで、ようやく回復傾向にある。当時は取引先から金型の値下げ要請があったが「受けたとしてもプラスにならなかった」ことから、受注を断った。このため、金型は安価で製造できる海外製が重宝され、仕事が減った。 そこで、従業員の休みを増やすなどの対応をしつつも、企業としての生き残りを図るため、設備投資を決行。誤差5ミクロンという高精度の金型加工技術を確立させ、自社の強みでもあった金型のメンテナンス業務に力を注いだ。近年は円安傾向が続いたため、国内に生産がシフト。金型製造の受注も戻ってきた。