「自分から売り込まない」「田植えをエンタメ化」…京都で130年続くお酢屋の5代目が打ち出した“逆転の発想”
従業員数36名、売上約4億円と小規模ながら、今もっとも注目を集めるお酢メーカー「飯尾醸造」(京都府宮津市)は、130年の歴史を誇る老舗だ。一般的な米酢基準の5倍もの米を使って伝統製法で手がける「富士酢」を軸に、ピクルスや手巻き寿司専用酢など、大手が追随する新市場を次々と開拓してきた。5代目当主・飯尾彰浩氏(49)のモットーは「弱者こそ強い」。逆転の発想の源は、新卒入社した“世界No.1企業”での挫折だった。 【動画】専門家に聞く「事業承継はチャンスだ。」
◆世界No.1企業で突きつけられた「適性のなさ」
―飯尾醸造のお酢作りについて教えてください 当社は「米づくり」から手掛けているお酢屋です。 看板商品の「純米富士酢」は、ミシュランシェフからも評価された芳醇な旨みが特長です。 これは酢1リットルにつき米200gと、「米酢」を名乗れる基準量の5倍もの米を使用しているからです。 飯尾醸造の味の要は、米なのです。 京都府宮津市の棚田で無農薬栽培した新米から作った酒を、3~4ヶ月かけて静置発酵します。 さらに8ヶ月ほど熟成させてまろやかに仕上げます。 酒の仕込みを省略して醸造アルコールを添加するメーカーもある中、日本古来の製法を守り抜いています。 ――5代目ということですが、いつから家業を継ぐこと意識したのでしょうか? 高校1年生の三者面談で、父が「息子には東京農業大学醸造学科の柳田藤治先生の研究室で、米酢にまつわる研究をしてもらいます」と宣言したんです。 中学生の頃から「いずれ自分が継ぐのだろう」と思っていましたが、そこでより将来像が明確になりました。 その後、本当に東京農業大学に進学し、醸造学を専攻して大学院修士課程を修了しました。 ――その後、東京コカ・コーラボトリングに入社されました。 家業を継ぐ時のために、大手食品メーカーで営業を経験しておきたかったのです。 コカ・コーラは、飲料メーカーとして当時の世界No.1企業でした。 絶好のチャンスでしたが、私に営業はまったく向いていませんでした。 「買ってください」とストレートに売り込めず、尻込みしてしまいました。 上司からも「適性がない」と判断されて、研修プログラムやワークショップを作成する教育部門に異動となりました。 ですが、ここで学んだマーケティングはとても大きな財産になりました。 自分から売り込めないなら、相手が買いたくなる空気を作ればいい。「矢印の向きを普通とは真逆にすればいいんだ!」と気付いたのです。 この発想は現在の経営方針と深く結びついています。