EVの逆風で注目高まる「PHEV」がいまひとつメジャーになり切れないのはなぜか?
■ トヨタ「旧型プリウスPHV」、三菱「アウトランダーPHEV」の実力は? 次に紹介するのはトヨタの旧型プリウスPHV。パフォーマンス重視の現行モデルと異なり、環境性能を最重視したモデルである。 充電率100%でスタート後、バッテリー残量の下限に達してハイブリッド走行に切り替わったのは59.7km地点。この時はエアコンオフで走っていたためレネゲード4xeより有利ではあったが、総容量8.8kWh、推定使用範囲6.4kWhという比較的小さいバッテリーを使っている割にはかなり走るという印象だった。 ハイブリッド走行時の合成出力はノーマルHEVのプリウスと同じ122馬力。車両重量が150kgほど重くなるぶん動力性能的には不利で、正直“鈍足”の部類に入るという感じだった。ただしハイブリッド燃費はリッター20km台後半と非常に良好で、HEV版と変わらないくらい良かった。 3番目は三菱自動車のSUV型PHEV「アウトランダー」。ミニカークラスのBEVと同等の総容量20kWh、推定使用範囲14kWhという大型バッテリーを積み、前後に電気モーターを仕込んだ総重量2.1トンの重量級フル電動AWDモデルである。 満充電でスタート後、平均車速が15km/h程度という渋滞の中での走行だったこともあって電費は伸びなかったが、それでも62.2km地点まではEV走行が継続した。その際の1kWh当たりの走行距離は4.6km。同じ都市走行でも交通の流れが順調なケースでは5km台後半の電費を記録した。 EV走行終了後のハイブリッド走行の燃費は東京都内をおとなしく走った区間で15km/リットル、郊外路で16~17km/リットル、高速道路を速めのペースで走って14km/リットル台。エコカーという水準ではなかったが、重量級ボディであることを考えると御の字というスコアではあった。
■ EV走行後の燃費がHEVより悪ければPHEVの意味がない これらの事例から、PHEVは単にHEVのバッテリーを大容量化しただけでは良いモノにはならないということがうかがえる。環境ソリューション的に極めて重要なのはEV走行が終わった後の燃費だが、重量増を跳ね返してそのスコアを上げるには、エンジン効率や電動パワートレインのエネルギーマネジメントなどについて、あらゆる努力を払う必要があるだろう。 そこに関してはEVで出遅れた日本勢が圧倒的に優位だ。欧州メーカーがPHEVの高効率化で後れを取っている元凶は、欧州におけるPHEVのCO2排出量のカウント方法と無縁ではないだろう。 欧州の規制はPHEVに甘々で、EV航続距離が25kmもあれば総走行の半分は排出量ゼロとみなされる。60kmなら8割がゼロカウントだ。ハイブリッド走行時の1km当たりのCO2排出量が250gも出るような大型高級車でもEV航続距離60kmのPHEVにすればたちまち欧州の規制値95gを大幅に下回る50g/kmのスーパーエコカーに変身する。プリウスPHEVに至っては換算燃費がリッター100km以上。こんなレギュレーションに甘やかされていては、技術の進歩が阻害されるのも無理もない。 トヨタが第1世代のプリウスPHVをリリースした時、開発責任者の田中義和氏は「EV走行時にエコでもその後の燃費が普通のHEVより悪くてはPHEVの意味がない」と語っていた。ホンダもまた「アコードPHEV」「クラリティPHEV」を作る際、同様の主張をしていた。 実際、両社のPHEVはEV走行を終えた後もHEVと同等の燃費で走ることができた。PHEV化さえすれば規制をクリアできるという欧州とは最初から意識が違っていたのである。 欧州もここにきて、PHEVの実際のEV走行比率は計算のための前提よりずっと低く、審査値の数倍のCO2が出ているとの調査結果を公表。来年にはEV航続距離60kmで現在の8割から5割へ、さらに2027年には同3割へと、レギュレーション強化のスケジュールを組んでいる。 この条件でCO2排出量規制をクリアするにはPHEV化するだけでは済まず、本格的な高効率設計が求められるようになる。もちろんユーザーにとってはそのほうが今のPHEVに比べてはるかに大きな経済メリットを得られるため、遅まきながら性能を巡る激しい競争も起こるだろう。