Hedigan'sの特異な個性を考察、Suchmos・YONCE擁するロックバンドが音楽シーンに与える衝撃
Suchmosのフロントマン、河西“YONCE”洋介を擁する5人組・Hedigan’sがファーストアルバム『Chance』を11月20日に発表した。多くの音楽ファンが歓喜したSuchmosの再始動アナウンスから約10日後、アルバムの正式なリリース告知と、彼らとしては初となる全国ワンマンツアーの開催を発表したHedigan’sは、今後Suchmosとはまた違った形で音楽シーンに大きなインパクトを残すであろう存在だ。本稿では改めてHedigan’sを紹介するとともに、その特異な個性について書いてみたい。 結成のきっかけはYONCEが参加し、2023年3月に発表されたThe Street Slidersのトリビュート盤。The Street Slidersは1980年に結成された日本のロックシーンにおける生きる伝説であり、そのデビュー40周年を記念して企画されたトリビュートにThe Birthdayやザ・クロマニヨンズらとともに名前を連ねているという時点で、YONCEのロックボーカリストとしての存在感が浮き彫りになるわけだが、YONCEが歌う「愛の痛手が一晩中」のレコーディングに参加したのが現在のHedigan’sのメンバー。アコースティックな質感が印象的な原曲に対し、YONCEのバージョンでは7分40秒に及ぶ熱量高いセッションを聴かせていて、この手応えから本格的なバンド結成へと至っている。 ドラムはYONCEとともにOLD JOEのメンバーとしても活動する大内岳。OLD JOEはSuchmos結成以前の2008年から活動していたYONCEにとっての原点的なバンドであり、The Street Slidersのトリビュートに参加するにあたって、YONCEがまず声をかけたのも大内だったという。大内は他にもGlimpse Group、AKOGARE、Burgundy、LAIKA DAY DREAM、The90zといったバンドにも参加し、「愛の痛手が一晩中」で聴くことのできる熱量の高いプレイと、様々な音楽に対応する柔軟性とを併せ持ったドラマー。なお、OLD JOEとしては今年6月に10年ぶりの新作『Dessssert』を発表してもいる。 そのOLD JOEと盟友関係にあるバンド・Gliderでも活動しているのが、ギター・栗田将治とキーボード・栗田祐輔の栗田兄弟。2011年に結成されたGliderは1960~1970年代のビンテージなブリティッシュロックを基盤としつつ、キャリアの後期においては録音芸術としてのロックを追求してきた。YONCEとは奇しくも今年再結成を発表した兄弟バンドの先輩・Oasisへの愛情を共有してもいるだろう。なお、将治は現在ソロ・プロジェクトMerchant名義でも活動していて、ほぼ全ての楽器を自ら演奏し、多重録音で作品を作っているが、そこには祐輔も作詞で参加している。 そしてもう一人、やはり彼らと同年代で、かねてより交流があったのがベースの本村拓磨。現在は先日カクバリズムから新曲を発表したゆうらん船のメンバーとしても活動しているが、以前まではGateballersやカネコアヤノのサポートでも活躍し、NOT WONK・加藤修平のソロ・プロジェクトであるSADFRANKにドラマーの石若駿らとともに参加するなど、インディシーンにおいて際立つ活動を続けてきた。つまり、Hedigan’sとはYONCEを軸とした10年来の友人たちが、様々なキャリアを経て集結したバンドであり、それぞれが音楽を続けることの困難さを経験しながら、それでも強い覚悟を持って、友人としての距離感を崩すことなく、「自由に好きなことをやる」を信条とするバンドなのである。 そんなバンドのスタンスはこれまで発表してきた作品にしっかりと内包されていて、ビンテージなロックンロール、インディフォーク、サイケデリックロックを基調としながら、そこに大胆なポストプロダクションも施された楽曲からは、彼らの持つ実験精神と反骨精神がまざまざと感じられる。今年2月に発表されたEP『2000JPY』におけるリファレンスについてのメンバーの発言も、WILCO、The Smile、Velvet Underground、デヴィッド・ボウイなど実に様々だ。また、録音においてはGliderの拠点である埼玉県本庄市にあるstudio digが使われていることもポイントで、エンジニアも彼らと同世代であるテリーが担当。studio digはもともと1977年創業という長い歴史を持つ老舗の音楽スタジオであり、そこに現代的な感性を持つ30代前半のミュージシャンが集まることによって、モダンビンテージなHedigan’sの質感が生まれている。YONCEが神奈川県茅ヶ崎市の出身であることを思えば、都心から少し離れたその環境も、彼らのカウンター的な立ち位置とのリンクがあると言えるかもしれない。