「トランプはファシスト」… 最終盤の米大統領選で波紋を呼んだ「元側近の重要証言」の中身
人格攻撃の効果は「懐疑的」
これをよく弁(わきま)えているハリス陣営は投票日まで2週間を切った段階で、それまでの政策論争から、トランプ氏を「独裁者」「ファシスト」と呼ぶ人格攻撃に重心を移したとの見方もある。 ただ、その効果については懐疑的な声も聞かれる。トランプ支持者の多くは以前から彼が独裁者やファシストと呼ばれるのを百も承知しており、それでもトランプ氏を支持してきたからだ。そんな強硬なトランプ支持者らに向かって、ハリス陣営が今更同じ事を繰り返して主張しても、よけいに彼らの結束を強める恐れもある。 またハリス氏を支持する最大のスーパーPAC(政治団体)「Future Forward」も最近、民主党員に向けて出したメールの中で「我々の実施した調査によれば、『トランプはファシスト』のような人格攻撃は有権者への効果が薄い。むしろこれまで通り、経済や中絶問題などの政策論争を中心に、ハリス氏の優位性を訴える選挙運動を継続すべきだ」とする旨を訴えている。 しかし一方で共和党支持者の中にも、2021年1月6日の連邦議会襲撃事件などトランプ氏の危険な側面を憂慮している穏健な保守派層は多数存在する。彼らに向けてハリス陣営では、ケリー氏のような超党派的な元軍人の警告を言わば後ろ盾にして、トランプ氏が大統領に返り咲くことの危険性を訴え、票の切り崩しを図っているようだ。 同じ共和党員でありながら、以前から「トランプを大統領に再選することは米国の民主主義を破壊する」として、その阻止に向けて活動してきたリズ・チェイニー下院議員はハリス氏の当選に向けて共闘している。
「誰に投票したかは言わなくていい」
最近、両氏が出席した有権者との対話集会でチェイニー氏は未だ態度を決めかねている穏健な共和党支持者に向けて「今回だけは貴方の内なる良心に従って投票してください。(たとえ貴方が民主党のハリス氏に投票したとしても)誰に投票したかは(他人に)言う必要はありません(だから思い切って決断してください)」とまで言っている。 今のハリス陣営が当てにしているのは、まさにこうした共和党の有権者であろう。もしも来週の大統領選でハリス氏が勝つとすれば、それは恐らく、これら穏健な保守層がインフレなどの経済問題や移民、中絶問題などをひとまず差し置いて、アメリカの民主主義を守ろうとする方を優先したため、と見るべきかもしれない。 【さらに読む】『有権者に毎日「100万ドルあげる」ってマジか…!イーロン・マスクがトランプを必死に応援する「本当の狙い」』
小林 雅一(作家・ジャーナリスト)