巨額の年金資産が消失 AIJ投資顧問事件 警視庁150年 135/150
将来の年金受給に対する不安が増大する中、平成24年2月、投資顧問会社が全国の厚生年金基金から運用委託されていた年金資産1500億円を消失させる「年金詐欺」ともいえる事件が発覚する。 年金資産などの運用を行う「AIJ投資顧問」は年金不安に乗じ、高利回りという噓の運用情報で金集めに奔走。計約88万人の加入者を持つ全国の84基金から集めたが、運用の失敗を公表せず、運用成績を改竄(かいざん)して営業を続け、集めた資金を返済に充てる自転車操業を長年続けていた。 「だました認識はない」。AIJ社長は、国会の証人喚問でこう主張するなど詐欺性を一貫して否定。警視庁捜査2課は犯意を立証するため、改竄された純資産総額の解析や、運用委託された中から詐欺性の高い事例のあぶり出しを進めた。 捜査2課は同年6月、長野市と東京都の2つの年金基金に虚偽の運用実績を示して約70億円をだまし取ったとして、AIJ社長らを詐欺容疑で逮捕。両基金はAIJにそれぞれ約65億円と約5億円を支払ったが、当時の実勢価格は約11億円と約1800万円で、大幅に水増しした価格でファンドを販売していた。 公判では詐欺と金融商品取引法違反(契約の偽計)の罪に問われた社長に懲役15年の実刑判決が下った。AIJから資金を回収できた基金はごくわずかで、基金の多くは自ら補塡(ほてん)し、資金不足から解散に追い込まれた。事件を機に厚生年金基金制度は廃止され、26年4月以降は新設できなくなり、基金の解散が加速した。(外崎晃彦)