鳥羽周作シェフが語る、レシピの「編集」とVaundyの共通点とは?
「料理」とVaundyとの親和性
―そこにも鳥羽さんなりのコツが(笑)。自分は家で作らないし食べないのに、家庭でできる料理について発信することが好きなのはどうしてですか。 鳥羽:喜ばせることが好きなんじゃないですかね。「誰かのため」の手段として「料理」が好きなんだと思います。失礼かもしれないですけど、Vaundyさんは自分と似てるタイプだと思っています。 ―ミュージシャンのVaundyですか? 鳥羽:彼って、ヒットメーカーじゃないですか。どのジャンルでもみんなが気持ちいいと思う曲を作る天才。みんなが喜ぶポイントをわかった上で、編集がすごく上手なんだと思うんです。たとえば「同じカルボナーラでも何かがちょっと違う」みたいな編集能力がすごく大事だと思っていて、そこに親和性を感じます。 ―レシピの編集と音楽の編集を並べて語る視点は面白いです。 鳥羽:彼も、音楽を手段として人を喜ばせることに目標を置いて、何をやっても絶対にいい曲を作るタイプだと思います。僕も安定して美味しいものを作るタイプで、それはアーティストじゃなくてクリエイターだからだと思うんです。Vaundyさんもアーティストっぽく見えて、クリエイターなんだと思います。アーティストは自分の強烈な感性でやるけど、クリエイターには編集の感性がある。あと、これからはファンを「広げる」よりも「深く育てる」時代になる気がしているんです。 ―ああ、それはミュージシャンをインタビューしたりインフルエンサーと接する中でも時代の空気として感じます。 鳥羽:「こういうふうにやったら喜ばれるな」ということもすごく大事なんですけど、たとえば「『家族のための男飯 もんきち』はこれが好き」「これがもんきちである」ということを全面に出して、そのスタンスが好きな人に向けてやっていくのがいいと思います。今は多様化しすぎて、本当にみんなに好かれる理由があるのかということもあるし、みんなに好かれようとするとクリエイティブの純度が薄まってくると思うんですよ。 ―全員に好かれようとすると、誰にも当たらないんですよね。 鳥羽:しかも「薄く当たっても……」という感じじゃないですか。たとえばフォロワーが100万人いるよりも、濃い20万人いる方が、幸せなんじゃないかなと僕は思います。レストランも「こういう人にも、ああいう人にも来てほしい」ってなるとキリがない。今、レストランの照明を暗くしているんです。「インスタ映えする写真が撮れない」という意見もあるんですけど、自分たちはこれが好きでやってるし、インスタ映えする写真が撮れるレストランはいっぱいあるから、それを求める人は自分の好きなところに行けばいい。選択肢が少ない時代だったらそういうふうに言うのはわかるんですけど、今は多様化していっぱいありますから。しかも自分が46歳になって残りの人生を考えた時に……お客さんに来てもらうためにやりたくないものまでやるのは、人生の時間の使い方として正しいのかどうかを考えちゃうんですよね。 ―そういった想いから、sio含め、全店舗お子様連れOKにされたんですか? 鳥羽:それは、その日に打ち合わせがあって、「sioに行きたいんですけど子どもは無理ですよね?」って言われて、もういいかなと思っちゃったんですよね。もともとsio以外全部OKにしていたので、急に思い立ったとかでもなくて。「高級なお店でデートがしたいのに、子どもがいたら雰囲気が壊れるよね」と言う人も出ると思うんです。でもそういう方は他のレストランに行かれたらいいと思うし、子どもを受け入れないレストランが悪いとも思わない。これは選択肢の話ですからね。 ―消費者にとっても、自分に合ったものや好むものを選ぶことができる時代ですからね。 鳥羽:大事なのは、それぞれの立場での配慮や思いやり、想像力ですよね。子どもが暴れてる時に親がほったらかしにするのは違うと思うけど、食べに来る人には「子どもが泣いちゃってもしょうがないよね」という思いやりが欲しいし、僕らは子どもが飽きない仕組みを用意したい。みんながハッピーになるために、それぞれできることをやればいいだけの話で、そういった最低限の配慮や想像力を持っていたらもっといいレストランになるんじゃないかと思ったんです。別に子どもを受け入れることだけが正解とも言ってなくて、自分の「スタンス」の話ですよね。納豆にソースをかける人がいたって、それはその人の勝手だからよくて、自分は醤油をかければいい。それぞれに対して「無関心」ではなく「尊重」が大事になっていくからこそ、自分のスタンスをちゃんと表明したほうがいい時代だと僕は思っています。 ―それはレストランに限らず、いろんなクリエイティブやビジネスに通ずる、これからの時代に大事な考え方ですね。 鳥羽:尖る必要があるわけではなくて、「自分らしさ」というものを表現していくべき時代によりなってくるんじゃないかと思いますよね。その中でフィットしてお客さんになってくれる人が、明確に分かれる時代になるんじゃないかと思います。 ―そうやって自分の考えをSNSで発信していると、アンチコメントもくるじゃないですか。それにも優しく返信されるのはどうしてですか。 鳥羽:答えてほしそうだなと思って(笑)。いいか悪いかはさておき、その人たちも熱量があってやっていることだと思うので、「それはそれで受け取りましたよ」っていう。それを選択するかどうかは僕の勝手ですけど、意見として受け止めたことを、たまには伝えてもいいのかなと。スルーしてもいいんですけどね。