50歳“鉄人”伊東輝悦の笑顔と涙。最後まで貫いた矜持「今日も心から楽しみたいなと思ってやりました」
子ども時代からの喜びに突き動かされて
そんな伊東から刺激を受けた人間は少なくない。自身も40代まで現役を続けた中山監督は感謝を口にする。 「沼津のトレーニングは決して楽ではない。多少はコントロールした部分はありますけど、そこにしっかりと挑んでくれた。『テルがやってるのに、何でできないの』っていうのは、他の選手にとっても非常に大きなこと。 川又堅碁や齋藤学にしても『テルがこれだけ頑張ってるのに、お前ら何してんの』っていう感じで見られがちでしたし、若い選手や下の世代はもっとそう。彼らを引っ張り上げ、気持ちを高めさせるという意味で、非常に素晴らしいプレーヤーだった」 指揮官から名前が挙がった齋藤も「沼津に練習参加した時、テルさんが普通にキツいメニューを若手と一緒にこなしているのを見て、『俺はもっと頑張らなきゃいけないんだな』と思えた。それがこのチームに入る一発目のきっかけでもあった」と明かす。 「練習試合をやっていても、今でも普通に45分で6キロくらい走っちゃう。それは本当に考えられないこと。僕は感覚的にも合うところがすごくあったので、テルさんと一緒にプレーするのは楽しかった。持ってるセンスや技術は本当に秀でていましたね。テルさんが45とか48の時にここに来ていたら、もう少し長く一緒にプレーできていたかもしれないですけど、この1年間、同じチームでやれたことは財産になりました」と、34歳のドリブラーは新たな活力をもらったようだ。 対戦相手の安永も「伊東選手の黄金期を知ってるわけじゃないけど、プロアスリートを50歳まで続けることがどれだけ凄いかは、同じ職業だからよく分かります。横浜FCでカズさん(三浦知良=鈴鹿)を見てきましたけど、長くプレーする人というのは、やっぱり素晴らしい人格だったり、サッカーに対する特別な時間のかけ方がある。本当にリスペクトしかないです」としみじみと語っていた。 多くの選手やファンを感動させた伊東。彼がここまでサッカーにこだわったのは、「サッカーは楽しい」という子ども時代からの喜びに突き動かされたから。セレモニーの最後に「みなさん、サッカーを楽しみましょう」と声をかけたが、それこそが自身の矜持に他ならなかった。 「僕が伝えたいのは、ホントにサッカーを楽しむこと。見るでもやるでも楽しみ方はいっぱいある。自分が周りの人に何を与えられたか分からないし、逆にパワーをもらいながら頑張ったけど、今日も心から楽しみたいなと思ってやりました」と、いかにも伊東らしい口ぶりでメッセージを残していた。 今後は全くの未定で、中山監督は「指導者の道を選ぶのか、カフェでサッカーを見続けるのか、そこは注目していきたい」と冗談交じりに語ったが、伊東にはサッカーの素晴らしさを伝え続けてほしいところ。50代の新たな人生のスタートの行方を興味深く見守りたいものである。 取材・文●元川悦子(フリーライター)
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