「りゝしさは四つに組んだる角力哉」 正岡子規と大相撲の横綱同時昇進
【ベテラン記者コラム】こいつは、春から縁起がいい。来年1月の大相撲初場所(12日初日、両国国技館)でこんな気分を味わえるかもしれない。 11月の九州場所千秋楽。横綱照ノ富士が休場するなか、出場力士の番付最高位の琴桜(27)と豊昇龍(25)の両大関が13勝1敗で賜杯を懸けて対戦。大関同士による千秋楽相星決戦は1場所15日制が定着した昭和24年以降6例目。21年ぶりの大一番で、一年納めの場所を締めくくった。 横綱審議委員会(横審)による横綱昇進の内規には「大関で2場所連続優勝もしくはそれに準ずる成績」とある。琴桜が賜杯を抱いた千秋楽打ち出し後、昇進問題を預かる審判部の高田川部長(元関脇安芸乃島)は14勝の琴桜、13勝2敗の優勝次点となった豊昇龍にも「いい相撲を取れば、大きな夢を引き寄せる」とし、初場所ではそろって初の「綱とり」に挑むとの見解を示唆した。 横綱同時昇進はこれまで、江戸時代の寛政元年11月場所の「谷風-小野川」、明治37年1月場所の「梅ケ谷-常陸山」、昭和18年1月場所の「安芸ノ海-照国」、昭和36年九州場所の「大鵬-柏戸」、昭和45年春場所の「北の富士-玉の海」の5組。因縁の相手や同世代、相撲の型が対照的などわかりやすいライバル関係の構図がある。 なかでも、「梅常陸」といわれた黄金期を構築した梅ケ谷と常陸山の昇進には人の機微があらわれた。 明治36年5月場所9日目。梅ケ谷との全勝対決で、常陸山が突き倒した。この白星で優勝相当の成績を残し、場所後に横綱免許の授与が決まる。ところが、常陸山はすぐに昇進を承諾しなかった。自身と同程度の実力を持ち、観客を沸かせる取組で人気のあった梅ケ谷の存在を認め、「できれば梅ケ谷関と一緒に昇進をお願いします」と申し出た。これが受け入れられるかたちとなって、同時昇進が実現する。「角聖」といわれた常陸山の度量、人格を示す言動として語り継がれている。 「りゝしさは四つに組んだる角力(すもう)哉」