これはまさに奇跡!地域や家庭でこんなに違うのに、名称はただ一つ「お雑煮」
日本の食文化を代表する料理「お雑煮」。新年を迎えるときに、おせち料理と並んでなくてならないごちそうだ。毎年当たり前のように食べているが、ちょっとよその地域に目をやると、まったく違う「お雑煮」が存在する。そんな不思議な食べ物「お雑煮」の食べ比べができる「お雑煮たべくらべ会」を「茅乃舎」が実施。お雑煮について考える機会となった。 【写真】茅乃舎ではお雑煮の素晴らしさを「奇跡」と呼ぶ ■500年以上前から食べられていたお雑煮 お雑煮は古くは室町時代の文献にその名前が記されていて、実際はそれよりも昔から食べられていたのではないかと推測される、歴史のある食べ物。これだけの長い間食べられ続けているのは単純にすごいこと。そんな歴史のある食べ物で、おそらく日本人で知らない人はいないだろう「お雑煮」。 ところが、である。それぞれが思うお雑煮を詳しく語っていくと、その違いに驚かされる。まずはお雑煮に欠かせない、主役ともいうべき餅。東京のお雑煮には、焼き目の付いた角餅が入っているが、西日本では丸餅になり、焼かずにゆでて入れることが多いという。角餅は東日本、丸餅は西日本に多いが、完全に東西で分かれているとも言い難く、また、餅を焼くのか焼かずに入れるのかも地域によって異なる。さらに一部の地域では、なんと餅を入れないお雑煮も存在するそうだ。 汁物の基本となる出汁にも違いがある。多いのはカツオ節や昆布、煮干し(いりこ)を使ったものだが、これもまた地域によって違いがある。貝柱、サバ節、あご(トビウオ)、干しエビなど、年に一度のハレの日ということで普段あまり使わない素材を用いて出汁をとる風習があると考えられる。 ■地域によってさまざまな種類が存在する「お雑煮」 餅に続いて地域差があるのが、すまし汁か味噌仕立てかの違い。もっとも古いお雑煮は“垂れ味噌”と言われる味噌に水を加えて煮詰めて布袋でこしたもので食べていたと言われる。であれば、味噌仕立ての歴史のほうが古いわけだが、後に醤油や塩で味付けしたすまし汁が台頭してくる。 現代では、東北から関東、北陸、中部、四国の一部、中国、九州と広い範囲ですまし汁のお雑煮が食べられている。味噌仕立ては関西と四国の一部に限られる。また、島根県とほか一部の地域では小豆雑煮なるものを食べるという。小豆を煮た中に丸餅を入れたもので、見た目はぜんざいやおしるこのようだが、それよりはサラッとした甘さなのだという。 さらに地域によっては、元旦と2日目で違ったお雑煮を食べる風習もあるそうだ。違うお雑煮を用意する人のことを考えると大変だとは思うが、違った味が食べられるのは楽しみが広がるというもの。それにしても、地域によっての違いがすごすぎる。 ■もはや正確な数がわからないほど具材は千差万別 そしてお雑煮といえば、やっぱり気になるのが具材。鮭やブリといった魚をはじめ、海老やハマグリ、牡蠣など海の幸を使う地域は多い。出世魚のブリや福をかき入れるという意味の牡蠣、縁起物のエビなど、やはりハレの日、めでたい日に食べるものだから、ごちそうとしての位置づけもあるのだろうか。 また、年神様に献上するものを自分たちもいただくという考えから、地元の特産物などを使うことも多い。野菜は大根や人参、葉物を使う地域が多い印象だが、里芋やごぼう、椎茸(どんこ)などを使ったり、山菜、海苔などのその地ならではの食材を使ったりすることも。祝いの席に食べるものだからというのはもちろん、来客をもてなすため、あるいは見栄のために具だくさんにする地域もあれば、具材少なめのシンプルな地域もある。 さらに地域性だけでなく、各家庭での“家庭の味”としての発展もある。家族のために食べやすいものや手に入りやすいものに具材を変えたり、切り方を変えたり、結婚した相手の郷土と異なるお雑煮を食べていた場合に、いい塩梅の折衷案に落ち着いたり、各家庭で育ったお雑煮の味が存在する。 茅乃舎では2024年11月21日~24日までの期間限定で、5種のお雑煮を食べ比べられる「お雑煮たべくらべ会」を開催。食べられるのは、椎茸や焼きあごで出汁をとり、細かく切った根菜や山菜などが入った「青森けの汁雑煮」、カツオ節と昆布で出汁をとり、鶏肉や車エビ、小松菜などが入った「江戸雑煮」、白味噌仕立てで丸餅を入れた「京風雑煮」、岩海苔が入って磯の香りが楽しめる「能登雑煮」、焼あご出汁にブリやかつお菜などを入れた「博多雑煮」の5種。事前予約で満席になるほどの人気ぶりで、一部当日席も用意した。 昔から食べられていて、日本の伝統食で、お正月に食べるもの。その認識は同じに違いないのに、思い浮かべるお雑煮は個々に違うなんて、なかなかほかにない料理。お雑煮を通して日本の食文化について目を向けてみるのもいいきっかけになるかもしれない。