製造業の苦境脱出は? カギ握る「シリコンサイクル」は好転するか
半導体不況が起因ともいえる製造業の苦境。製造業を中心とした景気減速はいつまで続くのか。「シリコンサイクル」をキーワードに第一生命経済研究所の藤代宏一主任エコノミストに展望してもらいました。 【グラフ】世界経済減速のもう一つの要因「シリコンサイクル」
2012年の円高不況時と同水準まで低下
「上昇2年・下降2年」の4年周期を持つ半導体需要の波(以下、シリコンサイクル)は今、2017年後半をピークとする下降局面に位置しています。これは世界の製造業の景況感を示す「グローバル製造業PMI」が2017年末頃にピークを付けた後、足もとまでほぼ一貫して低下しているのと整合的です。したがって、現在の製造業の苦境は、半導体不況によってもたらされていると言えるでしょう。 世界の半導体売上高が落ち込む中、6月のグローバル製造業PMIは49.4へと低下し、2012年夏頃と同水準に沈みました。2012年夏頃といえば、欧州債務危機の真っ只中。ギリシャの火事がイタリア、スペインへ飛火していた時期で、日本は円高不況に直面していました。ドル円が80円を割れ、日経平均は9000円回復がやっとでした。 こうした製造業を中心とする景気減速はいつまで続くのでしょうか。カギを握るのはシリコンサイクルです。過去のパターン通り下降局面が2年程度で終われば、2019年後半~20年前半ごろに底打ちのタイミングが到来し、世界経済が再加速することになります。しかしながら、足もとで米中貿易戦争が激化していることに加え、スマホやPC需要の飽和というこれまでになかった要因によって、このパターンが崩れる可能性もあり、確信が持てない部分があります。
日本の出荷・在庫バランスは改善傾向
シリコンサイクルは好転するのでしょうか。そうした観点でみると、日本の5月の鉱工業生産統計で示された「電子部品・デバイス工業」の在庫調整進展はポジティブでした。電子部品・デバイスの在庫は2018年9月に前年比+40.7%まで膨れ上がった後、2019年5月はわずか+3.8%に縮小し、在庫の増加ペースが緩やかになっています。依然として在庫は積み上がっていますが、メーカーの適切な在庫管理が奏功しつつある模様です。このままのペースでいけば、在庫が減少に転じるのは時間の問題といっても良さそうです。 「出荷」と「在庫」の前年比変化率の差分をとった出荷・在庫バランスは明確に反転上昇し、プラス圏回復も視野に入っています。鉱工業生産はあくまで世界のシリコンサイクルを説明する一つの要素ですが、半導体のサプライチェーンは国をまたいで複雑に絡み合っているため、ある特定の地域だけが反対方向を向くことは稀です。したがって、これを世界のシリコンサイクル好転のシグナルの一つと認識して問題ないと思われます。 日本の電子部品・デバイスの出荷・在庫バランスは、日経平均株価と一定の連動性を有します。このまま出荷・在庫バランスが改善を続ければ、株価も堅調に推移していくことが期待されます。
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