「社会が必要とするものを全てやる」セコム創業者の飯田亮が前のめりで描き続けた企業のグランドデザイン
■ これから真価が問われる「常に革新する企業カルチャー」 飯田氏は1976年にセコム会長となり(1989年に一時的に社長に復帰)、1997年には取締役最高顧問、2022年、創業60年の年に取締役を退任。そして2023年1月7日、急性心不全により89歳の生涯を閉じた。 晩年のインタビューではこれからのセコムについて次のように語っていた。 「時間をかけて、僕の仕事を次の人たちに渡してきた。(現経営者の)彼らは、創業の頃の考えをよく理解してくれています。でもだからといって、僕の言ったことを金科玉条のように捉えてほしくはない。 セコムには『社会にとって正しいのか』や、『現状打破』といった基本的な考え方がある。それは大事にしてほしいが、世の中は常に動いている。セコムもそれに対応していく必要がある。人間というのは非常に愚かなものだから、いくら創業者の教えだからといって、守るとなったら組織が固くなってしまう。そうではなく、常に柔らかく、環境に合わせて進化していかなければならない」 セコムは今年4月1日に社長交代を行った。5年間にわたり社長を務めた尾関一郎氏は飯田氏の女婿だが、6月の株主総会をもって取締役を退く。 新社長の吉田保幸氏は創業家とは縁もゆかりもない。これまでも非同族社長はいたが、その時は飯田氏が「代表」(代表権返上後もこう呼ばれていた)として控えていた。しかし6月以降、セコムのボードメンバーには創業家は一人もいなくなる。セコムにとって新しい歴史が始まろうとしている。 その時にセコムはどうなるのか。飯田氏の言う「社会にとって正しいのか」「現状打破」を踏襲し、失敗を恐れずにチャレンジを続けることができるのか。「創業以来、常に革新する企業カルチャーをつくろうと努力してきた」飯田氏の真価が、これから問われることになる。 【参考文献】 月刊経営塾(1996年12月号) 月刊BOSS(2014年11月号)
関 慎夫