「社会が必要とするものを全てやる」セコム創業者の飯田亮が前のめりで描き続けた企業のグランドデザイン
■ グループ企業数は200社超、セコムが掲げた「社会システム産業」の全貌 10年ほど前のこと。筆者の在籍していた雑誌で「セコム、しってますか」という特集を組んだことがある。 「セコム、してますか?」は長嶋茂雄氏が登場するセコムCMのキャッチコピーであり、家の安全を守るためにはセコム、と訴えている。しかし、現在のセコムの事業領域は極めて広く、情報通信や不動産など「こんなものまでセコムがやっているのか」という部門にまで広がっており、グループ企業数は200社を超える。そうした、一般的には知られていないセコムの全貌を紹介しようというのがこの特集の意図だった。 この領土拡大の設計図ともいえるのが、1989年に掲げた「社会システム産業」というビジョンだ。それに基づき1991年に在宅医療サービスを開始し、メディカル事業に参入。1998年に保険事業、1999年に地理情報サービス事業、2000年に不動産事業、2006年に防災事業を開始した。「社会システム産業」の構築に何が必要なのか、足りないものを貪欲に求め、自社の中になければ積極的にM&Aを行っていった結果だった。 さらに2010年からは「All SECOM」戦略が始まる。セコムグループのセキュリティー、防災、メディカル、保険、地理情報サービス、情報通信、不動産の7つの事業に、海外事業を加えた8つの事業が相互に連携を深め、新しいサービスを構築していこうというものだ。 例えば、ドアの開錠ができるICカード。これだけなら単なるセキュリティーのためのひとつのパーツにすぎないが、同時に入退室記録が残るためタイムカードとして使うこともでき、そこから給与計算へとつなげることも可能だ。 このように、それぞれの事業が結びつくことで、新たなビジネスが生まれる。そのエコシステムを飯田氏は構築してきた。そしてその根底には、「社会が必要とするものを全てやる」という飯田氏の思想と哲学があった。 だからといってダボハゼなわけではない。筆者のインタビューで飯田氏はこう語っていた。 「お客さんの言う通りやってきたらこうなったと言うことができればいいのだけれど、そうはいかない。お客さんはそう簡単には教えてくれない。実際には、仕事を続けているうちに、これはこういうやり方でやったらいいと気付いたり、世の中に欠けているのはこれだ、ということに気付いてそれを埋めてきた。 さらには自分たちのデザインに基づいて、ここが不足していると思えば、それをできる事業をつくったり、会社を買収する。言い方を変えれば、そういうことができる会社をつくってきた。だからあまり無駄なことはやってきていない」(飯田氏) もちろん失敗がないわけではない。1991年にはアメリカの家庭用医療サービス会社を買収するが、4年後には売却に追い込まれる。しかし、それ以上の失敗だったと生前、飯田氏が語っていたのが、アメリカのセキュリティー事業だった。 自分たちのセキュリティーシステムはアメリカでも通用する。そう考え、現地の警備会社を買収し、乗り込んだ。ところが「アメリカのセキュリティービジネスの経営形態は、日本とは全く違った。現地では小さな会社を買って、少し手を入れて株価を高めて高く売るのが一般的。大きく育てようという発想がない。だから早々に撤退した」と飯田氏は悔やんでいたが、続けてこうも語っていた。「やる時は前のめりになってやる。それで失敗しても仕方がない。また別のことをやればいい」 前回の記事にも書いたが、飯田氏はセコムを起業する時に「未開拓、新分野の事業であること」を条件としていた。未開拓であれば、当然リスクはある。それでも前のめりになってチャレンジしなければ成功は覚束ない。「失敗しても仕方がない。また別のことをやればいい」の言葉は、飯田氏の生き様そのものだ。