バブルに踊った「雪国」の舞台、1室数千万円だった豪華マンションが今や10万円 「東京都湯沢町」とも呼ばれた人気リゾート地の現在
代々受け継いだ田畑や山林を売って数億円の売却益を得る町民も現れた。「土地を売ってくれという人が入れ代わり立ち代わりやってきた。まだ値上がりすると思って待っていたら、バブルがはじけて営業はなくなったが…」。ある地主の男性は当時を懐かしむ。 バブル崩壊後は、日本経済の失速と歩調を合わせるように湯沢町のマンションも冬の時代に入った。「今となっては笑い話」(地元住民)の超高層タワー構想も開発業者の撤退で消え、1993年度の2棟を最後に現在に至るまで新たな物件の建設はない。スキー客の来訪が鈍り、マンションの価値はつるべ落としに下がっていった。 ▽定住、修繕、投資。町にはメリットも 廃虚化した物件はいくつかあるものの、全体として建物は良好に維持されている。湯沢エリアでマンション約5600戸を管理するエンゼル不動産の新保光栄社長(61)は「純粋な投資目的の人は逃げ足が速かったが、今の所有者の多くは湯沢が好きな人。1年間全く使わないという人は1割もいない」との見立てだ。売却で身軽になりたい人はいるが、管理不全による問題は生じていないとも話す。 共用のプールや大浴場といった設備が見直され、マンションで暮らす定住者が増えている。町が統計を取り始めた1997年には178人だったが、足元では1700人超と10倍に。町の人口のおよそ2割が住む計算だ。
ある男性(84)は新潟市の一戸建て住宅を賃貸に出して、自身は30万円で買った湯沢町のマンションで生活する。「家の雪下ろしをしなくてもいい。住民間のつながりも薄く、独り身には気楽でいい」。縁もゆかりもない湯沢町に移り住んで既に12年。悠々自適の1人暮らしに満足げだ。 きちんと手入れして、物件の価値を高めようとする所有者もいる。苗場地区のランドマーク、30階建ての「ファミールヴィラ苗場タワー」に2部屋を持つ東京都の会社員田野雄二郎さん(65)は「大自然に囲まれており、リモートワークには最高の場所だ」と絶賛する。管理組合の理事長として率いる大規模修繕の工事では、外壁を断熱化して居住環境を高める計画だ。先進的な事例として、国も補助金で支援する。 低層階の住戸が1戸数十万円で売りに出されるなど市場での評価はさえないが、田野さんは「マンション各部屋のオーナーは苗場のことが好き」と代弁する。「嘆いていても始まらない。修繕や管理を徹底して、価値を高めることが大切だと思っている」と話す。