高畑勲の名言「目指しているものを実現させなくては意味がない。」【本と名言365】
これまでになかった手法で、新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。『アルプスの少女ハイジ』や『火垂るの墓』など、徹底したリアリズムを追究し、1本の線、1つのシーンにこだわり抜いた映画監督・高畑勲が語ったこと。 【フォトギャラリーを見る】 目指しているものを実現させなくては意味がない。 『火垂るの墓』や『おもひでぽろぽろ』などの作品で知られる高畑勲。宮﨑駿とともにスタジオジブリを設立し、日本のアニメ界を牽引、世界中のアニメーターたちからも支持を得ている映画監督だ。 目指しているものを実現させなくては意味がない。そう思ってしまうと、どうしても進行という部分がいい加減になる。会社側からは「何やってるんだ」といわれても当然なんですよ。でも、こちらは応えようがないという感じになっちゃったんですね。 この言葉は、宮﨑駿、スタジオジブリのプロデューサーの鈴木敏夫と3人での鼎談で語られたものだ。ちょうど映画『かぐや姫の物語』が公開され、宮﨑駿が引退宣言をした2014年に行われたものだ。 ジブリ作品のなかでも高畑勲作品の公開遅延エピソードは有名だ。鈴木は本書の中で、「高畑勲は、映画の完成度を高めるためならば、何をしても構わない。映画が公開に間に合うかどうかということをどう考えているかはわからない。」と述べている。そして、作品ごとに遅延の理由がいくつも挙げられる。『火垂るの墓』では、B29が神戸の街に空襲にやってくる場面で、実際にどの方向から飛んできたのかを調べた上で、主人公の清太が見上げる顔の向きを決める。『おもひでぽろぽろ』では、山形の風景を描くために現地に取材に行き、何の連絡もなしに市の観光課を訪ね、紅花農家を紹介してもらい製法を取材する。『平成狸合戦ぽんぽこ』では、狸にまつわる物語や生態、当時の開発の様子などを綿密に取材する。どんな短いシーンであったとしても、自分が納得のいくまで調べる。高畑勲は、そんな研究者のような姿勢で一つひとつの作品に挑んでいたのだ。そりゃあ時間がかかるわけだ。 高畑は大学時代にポール・グリモーの『やぶにらみの暴君』(後に『王と鳥』と改作)を見て衝撃を受け、アニメーションの世界へと足を踏み入れたのだが、その時のことを以下のように語っていた。「アニメーション映画というのは思想を語れる。しかも思想を思想として語るのではなく、物に託して語れる」(NHK人物アーカイブスより)と。 また、鈴木は本書の中で高畑との映画づくりを「一種のドキュメンタリー、知的エンターテインメントになっているんです」と述べる。この本を携えてジブリ作品を見直してみたい。
たかはた・いさお
1935年生まれ。映画監督。9歳の時に岡山市で空襲に遭う。大学進学で上京した後にポール・グリモーの『やぶにらみの暴君』(後に『王と鳥』と改作)と出会い衝撃を受ける。1959年に東映動画入社。代表作にテレビアニメ『母をたずねて三千里』、『じゃりン子チエ』、アニメーション映画に『パンダコパンダ』『火垂るの墓』『かぐや姫の物語』などがある。
photo_Yuki Sonoyama text_Keiko Kamijo illustration_Yoshifumi ...