福島県の甲状腺がんは「原発事故の影響とは考えにくい」と専門家が話す理由
チェルノブイリでは原発事故が起きたことを住民が知らされないまま、放射能で汚染された牛の牛乳を飲むなどして子供たちの被ばく量が大きくなっていった。一方で福島の場合、3月17日には厳しい食品規制が敷かれ、内部被ばく量がかなり低く抑えられたという。「また、チェルノブイリで甲状腺がんが目に見えて増えたのは5歳以下でしたが、福島では5歳以下では甲状腺がんは見つからず、見つかったのはほとんどが15歳以上でした。専門家の間ではその事実も、福島で見つかった甲状腺がんが原発事故による放射線ヨウ素被ばくによるものとは考えにくいとの見解につながっています」
「これまで見つからなかったがんが見つかるように」
では、なぜ福島県の甲状腺検査で甲状腺がんが115人も見つかっているのか。坪倉医師は、集団での甲状腺検査は今まで全く前例がないことだと指摘。その上で、検査を受けてこなかった人々に大規模検査を初めて行うことで、今まで見つかってこなかった症状が大量に発覚するという「スクリーニング効果」を理由に挙げる。 「甲状腺がんは進行するとしても非常に緩やかであり、死に至ることはほぼない(生存率の非常に高い)病気です。これまでは患者が喉にしこりを感じるなどの自覚症状があり、病院に来ることで初めて甲状腺がんであることが発覚していました。しかし感度の高い超音波検査を大規模の集団で行うことで、本来なら治療の必要のないほど小さながんまでも見つけられるようになったのです」 韓国では1999年から乳がん検査と合わせて甲状腺検査を導入したところ、1993年から2011までに甲状腺がんの罹患率が15倍に増えた一方、甲状腺がんによる死亡者数は変化しなかったというデータが発表されている。「データを解釈する際に大事なことは、そのスクリーニング効果による増加分を超えて増えているか?という点なのですが、その点が置き去りにされて『がんが数十倍に増えた』という数字だけがしばしば抜き出されている。一般的にスクリーニング効果で患者数が数十倍に増えるというデータは科学的に示されている一方で、福島の原発事故による人々の被ばく量は甲状腺がんを増加させるとは考えにくいほど小さいものです」