福島県の甲状腺がんは「原発事故の影響とは考えにくい」と専門家が話す理由
福島県が東京電力福島第一原発事故後に始めた甲状腺検査で、甲状腺がんと確定した人数がこれまで115人に上っている。福島県の検討委員会は甲状腺がんの出現を「原発事故の影響とは考えにくい」と説明し続けているが、専門家がこう話す根拠は何なのか。東京大学医科学研究所研究員で、震災後は福島県南相馬市立総合病院で非常勤医を務め、県民の内部被ばく検査を続けている坪倉正治医師に話を聞いた。
チェルノブイリと福島とでは、被ばく量のケタが違う
チェルノブイリ原発事故では、放射性ヨウ素の被ばくにより0~5歳児の甲状腺がんが目に見えて増えたことが分かっている。このことから福島県は2011年10月、福島第一原発事故による子供の甲状腺への影響を調べるため、事故当時18歳以下だった県民を対象に超音波による甲状腺検査を開始。2014年4月から約38万人の県民を対象に本格調査を始めた結果、これまで計115人が甲状腺がんと確定した。県検討委は「原発事故の影響であることは考えにくい」と説明しているが、一部ではこの結果が、原発事故による被ばくの影響ではないかとの憶測を呼んでいる。 坪倉医師は「福島で発覚した甲状腺がんは、原発事故の影響とは考えにくい」と話す。「まず非常に重要な点は、甲状腺がんは『被ばくしたかどうか』のゼロかイチではなく、事故当時に被ばくした『量』で決まるということです」 国連科学委員会(UNSCEAR)の2008年の報告書によると、チェルノブイリ原発事故で避難した人々の平均甲状腺線量は、ベラルーシで平均1077mGy(ミリグレイ)、ロシアで440mGy、ウクライナで333mGyだった。これに対しUNSCEARの2013年の報告書では、福島の原発事故では飯館村など福島県内で最も高いグループでも、平均甲状腺吸収線量は20歳で16~35mGy、10歳で27~58mGy、1歳で47~83mGyと推計されている。 「つまり、チェルノブイリと比べ、被ばく量がケタ違いに低いのが福島の原発事故です。チェルノブイリ原発事故で判明している被ばく量と甲状腺がんのリスク上昇との相関関係を福島に当てはめると、福島の場合は被ばくの影響は目に見えて分かるレベルに到達するとは考えづらいです。確かに被ばくの事実はありましたし、県民全員の被ばく量を完璧に把握できているかと言われれば嘘になります。しかし、チェルノブイリの場合と今回の福島の場合とでは、被ばく量のケタが決定的に違うということは国内外のどの研究結果でも一致しており、この前提から議論を始めるべきです」